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今は反省している
- 日直の号令がかかり、皆荷物を片付け、教室から出てゆく。
その中の二人、竜児と大河は帰路に着こうとしていた。自宅が近いため帰り道は一緒だ。
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「ほら、駄犬!早く行くわよ!」
「へいへい」
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バッグを肩に書け、席を立つ竜児。その目は今から討ちこみに行くのか、人を殺しに行くのかという目つきと風貌だ。
だが本当は夕方からの特売セールを狙って今夜のメニューを考えている。本人はいたって真面目な青少年だ。
その隣の席、丸いメガネを掛けた青少年。北村祐作は竜児に話しかける。
「高須!この後久しぶりに遊ぼうじゃないか!」
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「別にいいが… 北村は部活があるんじゃないのか?」
「いや、今日は無いんだ。それに生徒会の仕事も無いからな」
「ちょ、ちょっと竜児!なんであんたが、キ、キタ、キキキタムラクンと遊ぶのよ!」
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「はぁ???別にいいだろ??なんなら一緒に遊ぶか?」
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竜児が小声で大河の耳元でささやく
(そしたら北村と遊べるだろ?)
「!!!! キ、キタムラクンと…!!!」
逢坂大河こと、学校中から手乗りタイガーと呼ばれる暴力少女は顔を真っ赤にしたまま頬が緩みっぱなしだ。
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「キタムラクンと… キタムラクンと…」
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「おい大河!しっかりしろ!」
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「はっ!!」
「とりあえず北村、この後俺は夕方にスーパーにやらなきゃならねぇ。それと遊ぶのは大河も一緒だが、いいか?」
「かまないぞ高須! それなら久しぶりにお前の作った料理が食べたいな!お邪魔してもいいか!?」
「あぁ、いいぜ。今日は月に一度の『かのうや 超スーパーセール!』の日だからな!」
「なら決まりだな! じゃあ俺は一旦家に行って着替えてから行こう。大体何時くらいがいいかな?」
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「じゃあ…」
北村が竜児の家に向かう時間を合わせ帰路に着く。
- 帰宅途中、大河はずっと「キタムラクンとお遊び… キタムラクン…」「はっ!!!」と繰り返しながら歩いていた。
そして日も暮れる頃、北村が竜児家の呼び鈴を押す。
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「おぉ、北村よく来た。入ってくれ」
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「お邪魔します!」
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「い、い、いらっしゃいませキタムラクン!!!」
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「大河!もう少し声を落とせ!ご近所に迷惑だろ!」
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「ははは!」
北村は靴を揃え高須家へあがる。
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「相変わらず綺麗にしているな。高須」
「まぁな。だが、最近大河がゴミを増やしていくから困っダホァ!」
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「いい加減なこと言ってんじゃないわよこの駄犬がぁ!」
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「いてーな大河! おっと、こんなことしてる場合じゃねぇせっかくの料理が冷めちまう。北村、居間に来てくれ。後はよそって運ぶだけだ」
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「早いな高須。それではいただこう」
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「こ!こちらへドーゾ!キ、キタムラクン!」
* * *
竜児は、将来店を持つとしたら、こんなウェイトレスは雇わないようにしよう、と思った。
「私が料理を運ぶわ!」と息巻いた大河は緊張しすぎたのか、手元足元口元がおぼつかない様だ。ガチャガチャ行っているのは食器なのか、口なのかわからない。
竜児は大河に大皿を渡した後、居間へ運ぶ大河の後姿で確信した。あぁ落とすだろうな。と。そしてグラつき倒れてゆく大河を見て景色がゆっくりとなる。
何で何も無いところでこけることが出来るのだと。
よく事故の当事者は、事故のあった瞬間、目の前がスローモーションになるというが、こういうことだろう。
ゆっくりと飛んでいく大皿。飛び出す中身。宙を舞う八宝菜。形の良いうずらの卵がクルクルと綺麗に回転し、北村のおでこにあたる。
そして追撃とでもいうように白菜、しいたけ、タケノコ、人参、鶏肉が北村を襲う。そして止めと言わんばかりのアツアツのあんかけが顔全体、さらには肩にまでかかる。
大河は大の字に倒れる。 竜児は口が開き体が止まっている。
北村は肩から上が美味しそうだ。
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「あ、あついーーーー!!!」
「だ、大丈夫か北村!?」
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「あついあついあついあてゅいーーー!!」
「お、落ち着けぇ北村!と、とりあえず風呂で冷水を浴びろ!こっちだ!」
竜児は暴れる北村を抑え、急いで風呂場へつれてゆく。とにかく冷やさなければ!と一心不乱に北村の上着を脱がしお辞儀させるように上半身を倒す。
そして冷水のシャワーを北村の頭めがけて当てる。
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「どうだ北村!?」
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「…」
「とりあえずシャワーを持て!俺は火傷に効く薬を用意する」
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そう言うと竜児は居間へ戻り救急箱を取り出す。空けた瞬間大河から声が聞こえてきた。
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「ううう… 北村君にヒドイことしちゃった… 絶対嫌われたわ…」
「大河!そんな事言ってないで火傷薬持ってないか!?切らしてるみたいだ!」
そう言いながら竜児が大河のほうを振り向くと、そには鼻水ダラダラの涙で目が真っ赤の大河が座っていた。
「おい大河、お前大丈夫か…?」
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「…大丈夫なわけ無いでしょ!! …こんな醜態さらして…!! グスッ」
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鼻を啜りながら止まらない涙を拭きつつ、声を抑えながら泣く大河。
これじゃあどうしようもねぇ。と竜児は立ち上がる。
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「大河!俺はこれから火傷薬を買ってくる。お前は北村の様子を見てくれ。床に落ちた料理はまだ熱いからくれぐれも火傷に注意するんだぞ」
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「…」
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竜児は家を出て一番近い薬局へ向かう。
「そうだわ… 嫌われるよりも北村君が火傷してるほうが大変よ!大丈夫かしら!?」
風呂場へ向かう大河。鼻も涙も止まらないが北村のことが心配だ。火傷を負わせたのは私自身なのだから責任を取らなくちゃ!
「大丈夫!?北村君!」
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「…逢坂か?」
「今竜児が火傷に効く薬買ってきてくれるからもうちょっと待っててね!」
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「逢坂…」
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「ど、どうしたの北村君!私に出来ることがあるならなんでも言って頂戴!」
北村はシャワーを止め俯いたまま喋る。
「逢坂、患部は冷えたみたいだ。だが、シャワーを浴びすぎてズボンがビッショリだ。悪いがあっちを向いていてくれるか?」
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「え!?あ?う、うん」
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大河はとっさに振り返り北村に背を向ける。
カチャカチャとベルトをはずす音がする。次にジッパーが下がる。ババッとなにか落ちる音がした。風呂場にベルトの金具と床の擦り合わさる音がする。
大河の心臓が早くなる。まさか自分が好きな相手が今後ろで裸になっているなんて。
「逢坂、もういいぞ。またせたな」
大河は振り向いてもいいものか考えたが、とにかく今は北村の容態が心配だ。と思い振り返る。
そこには

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