竹宮ゆゆこ総合スレ SS補間庫
   

 

 我が家の腹黒様 5

『ええぇぇ〜〜!?高須君なの?
マジで?高須君ってあの高須君?
同姓の別人とかいうオチじゃなくてぇ〜?クラスの高須君?』
大袈裟に驚く、親友に、ちょっとムッとする。
「そうよ、竜児君よ。
それ以外に居ないでしょ?」
まあ、麻耶の言いたい事も、解らないでは、無いけれど。つまり、
『え〜〜〜以外に、とか言われても
あたし、奈々子と高須君が話してるトコなんか見た事ないんですけど
一体、いつの間に知り合ったの?』
って事なんだろう。
「ん〜今日よ。今日、仲良くなって、告白して
あ、違うや告白してくれるの待って、それで、付き合う事にしたの。」
『はぁ!?今日なの?
何か、らしくないなぁ
奈々子って結構、ガード堅いじゃん?
あ、でも、向こうに、告白させるのは、奈々子らしいか限りなく
「あたしだって、ビックリよ。
けど、本気で、好きになっちゃったんだから、仕方ないじゃない?
一目惚れな上、マジ惚れよ?
あたしだって、そりゃ必死になるわよ。」
『はぁいっつも、年上の素敵な彼を待ってるのぉ〜、
とか、言ってた奈々子がねぇ〜』
「ちょっと!!そんな事、誰が、いつ言ったのよ?
あたしは単に、年上の包容力ある大人な男性と恋がしたい。って言っただけよ。
竜児君てさ、同年代だけど、ホント素敵なんだから
『はいはい。ワロスワロス。
奈々子に限って、大丈夫だとは思うけど
最初は、ちゃんと出し惜しみしなよ?
男なんて、すぐ調子に乗るんだから
「あ、今日、もうキスまで、しちゃったわ。」
『早ッ!?アンタねぇ〜
普段、言ってた事と違うじゃんホント大丈夫?』
「えぇ〜〜……と、どうなのかしら
あたしから奪いに行く分には、
別に構わないんじゃ無いかしら?
って、今は、思ってるけど。」
『ふぅん。まあ、その辺りは、任せるけどさ
あ〜あ、奈々子に先、越されちゃったよ〜
あたしも、格好いい彼氏欲しいなぁ〜良いなぁ〜羨ましいなぁ〜』
「麻耶は、まるお君狙いなんでしょ?」
『う〜ん。そうなんだけどさぁ〜
……
あ、コレって問題発生じゃん!?
高須君は、タイガーの相手してもらうつもりだったのに
高須君が、奈々子と付き合っちゃったら、
あたしがサシで、タイガーと張り合わなきゃイケないじゃん!?
勝てる気しないんですけど

気は強い癖に、意外とヘタレ。
そんな、親友の泣き事を聞き、
「あら、そんなに悲観したものでも無いわよ?」
『え?何で?』
奈々子に、ある秘策が浮かんだ。
「だって、竜児君とまるお君は親友同士じゃない?
で、あたし達も親友同士後は、解るわよね?」
『あ、ダブルデートだ?』
「その通り。私と竜児君のデートに、あなた達が付き添うの良いと思わない?」
『良い良い良いッ!!最ッ高じゃん、それ
でも、それだと、あたし達お邪魔じゃない?』
「ご心配なく。あたしは竜児君と2人で、どっか行っちゃうから。
麻耶とまるお君、2人で、あたし達を探してよ。」
奈々子ぉ〜〜。ありがとうぐすん
無邪気に泣き、心から、感謝する親友に、
奈々子は、ちょっぴりの罪悪感を感じていた。
実のところ、奈々子自身、竜児をデートに誘えるかどうか不安だったのだ。
2
人は付き合っているのだから、そんな事は簡単だ。
そう思えるかも知れないが、竜児と離れた今でさえ、
胸が熱くて、ドキドキしてパンクしそうなのに、
明日、顔を合わせて、キチンと言えるか、どうか。
それに、もし、断られでもしたら
竜児にだって、どうしても外せない用事位あるだろう。
以前から、言っているのなら、竜児も、奈々子とのデートの日は、空けておくだろう。
しかし、今日、付き合ったばかりで、いきなりデートに誘う訳だから、
スケジュールの調整が、つかない可能性はある。
つまり、親友の恋の応援は、奈々子にとっても、良い口実なのだ。
これなら、切り出し易いし、断れても、そんなに凹まない。
断れたのは、デートじゃなくて、親友の応援。そう、思う事にする。
まあ、行ったら、行ったで、思い切りデートを楽しむつもりだが
そんな訳で、奈々子は麻耶に、多少の後ろ暗さを感じていた。
ダシにしてゴメンねと。
しかし、麻耶は、麻耶で、そんな事は、承知している。
その上で、なお、親友に感謝しているのだ。心から。

奈々子が、自分に何かを提案する時、それは、大抵、何か裏がある。
でも、それを抜きにしたって、奈々子が自分の為を思っていてくれている。
その事に変わりは無い。だったら、それで良いじゃない。
ちょっと位、腹黒くても、奈々子は優しくて良い子。
2
人は、互いに、互いを、正しく、理解し合う。
まぎれもなく、親友だった。

***

奈々子が眠れないでいる夜。(電話中)
竜児も、また同様に眠れずにいた。
目を瞑って横になれば、寝られるかと、思ったが、
高揚する気分を鎮める事が出来ず、頭が冴えっぱなしだった。
ずっと、同じ体勢でいるものだから、何だか、背中が痛いし、
熱もこもってきて、ベッドが、蒸し風呂天国になっている。
外の空気でも吸おう。
ガラガラと、雨戸を開け放ち、のそのそとベランダへ。
う゛ゃあああああうまひぃ〜〜〜!!
冷たく澄み切った空気が肺へと運ばれる。
ひんやりとした、外気に触れ、高揚した気分の何割かが、鎮静化。
そして、ただ、ぼんやりと空を眺めていた。
綺麗な星だとか、丸い月だとか、そういったものがある訳では無く、
例えて言うなら、まるで海の様な、そんな夜空だった。
奈々子の事を考えていた。
あいつの目って、こんな色してたよな
など、と惚けていると
ガラッ!!
向かいの部屋の窓が、勢いよく、開け放たれた。
「ワッもう、なんだよ、ビックリするだろ?
てか、お前、風呂入って寝たんじゃなかったの?」
大河だった。ウィンドウの中に収まっていたのは、
髪ボサボサ、フリフリパジャマに、いつもの不機嫌面をぶら下げた、タイガだった。
「窓の外で人影が、ゆらゆらしてるから、気になって、開けみたのよ。」
寝起きでテンションが下がっているのだろう。
いつもより、やや低い声。
「あ、俺が起こしちまったのか?スマン。」
「フン。別に良いわよ。どうせ、寝付けなかったし。」
別に寝起きじゃないのか
だとすると単に機嫌が悪いのだろう。
羊でも数えて、さっさと寝ろ。明日、起きれねぇぞ。
と、竜児が口を開く前に、

「それよりアンタ何してんの?そんなトコで。」
先に、言われてしまった。
「え、いや、別に何も。」
何だか、イヤな予感がして、適当に誤魔化すが、
「浮かれポンチな顔しちゃって、まぁ。
あの子と何かあったんでしょ?
何があったのか、話してみなさいよ。」
大河は、逃がしてはくれなかった。

***

「ふ〜ん。で、付き合う事にしたんだ?」
「ス、スマン。」
何で、謝んのよ?
アンタが選んだ道でしょ?
謝ってんじゃないわよ。」
「そ、その事じゃねぇよ。
奈々子を選んだ事について謝ってんじゃねぇ。
そこは誰が何と言おうと、絶対、譲らないし、謝らねぇ。
俺が謝ってんのは、今まで、お前が、俺と櫛枝の仲を取り持ってくれた事。
それを、無にする事になる。っていうか、もう、した。
そこを謝ってんだ。」
アンタ、何か、勘違いしてない?
別に、私は、アンタと、みのりんが付き合って欲しいとか、
そんな事、思ってたんじゃないのよ。」
はぁ?」
「アンタがみのりんを好きだって言うから、
だから、協力してただけよ。
もう、みのりんの事が好きじゃないなら、
それは、それで、良いんじゃん?」
そうなのか?」
「そうよ。一度しか、言わないから、良く聞きなさい?
私はね、アンタの幸せの為を思って、色々してきたのよ。
アンタが、幸せでありさえすれば、何だって良い。
勘違いするんじゃないよ。
これは、別に、アンタへの好意じゃない。
ただ、ご飯作ってくれたり、色々、世話してくれた事に対する恩義よ。
話、聞く限りじゃあ、アンタ幸せそうだし、
なら、別に、私は、それで良いのよ。」
大河。」
「フン。でも、気を付けなさいよ?
あの、お色気ボクロ、ああ見えて、なかなか、したたかな感じよ?
ウカウカしてたら、アンタ絶対、尻に敷かれるわ。
ま、それも良いんでしょうけど。
あ、それと、しばらくは、私、アンタと距離置く事にするわ。
付き合い出して、最初の頃は、色々、あるだろうから。
ま、せいぜい、楽しみな。」

くちゅん。
小さな体を震わせてくしゃみをする。
「あぁ、さぶっ。
風邪引いたらヤダし、私はもう寝るわ。
アンタも、さっさと寝なさいよ?
そんなトコに、立ってられたら気になっちゃうじゃん
じゃね。バイバイ。おやすみ。竜児。」
ピシャリと窓は、閉じられ、それきり開く事はなかった。
大河。ありがとう。
俺は幸せになるから。
だから、お前も、ちゃんと見つけろよ?
一緒には、探してやれないけど、きっと、見つけろよ?
閉じられた窓の向こう。
遠くに居る、大切な奴の幸せを、竜児は祈った。

***

明けて翌日、大河は宣言通り、食卓に姿を見せなかった。
「ねぇ、竜ちゃ〜んまた喧嘩でもしたの?」
など、と泰子は心配していたが、
「してねぇよ。」
と、だけ、答えておいた。
俺に彼女が出来たから、アイツは遠慮して来ねぇ。
と、言っても良かったのだが、それはまたにした。
それは、先に奈々子を紹介してからの方が良いだろうと、判断したのだ。
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃ〜い。」
カツンカツンと錆びた階段を降りながら、
竜児は考えていた。これからの事などという未来的な事では無く、
この先、30分後、やってくる、ある事柄について。
学校で奈々子に、どう接しよう?どんな顔で話そう?何を話そう?
最初、に何て声掛けよう?昼飯は一緒?休み時間は?下校は?放課後は?
「おはよう竜児君。良い朝ね。」
家を出て30秒。不意に掛けられた声により、
30
分あると思われた猶予は、砂となって流れ落ちた。