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昼バド
- 「犬には語るだけ無駄だったようね」
「いっってぇ……。か、皮めくれた! あのな、そんなもん完全に個人的な事情じゃねえか!
そんなもんのために……」
「いやー、しかしそうとも限らないのだよ高須君」
後ろからぽわっとした明るいトーンの声。
「……櫛枝」
「ども、はぐれJKバドミントン派、櫛枝実乃梨です」
あいや失礼と、手刀を切りながら竜児の隣に座る。
「な、なんだよ。そうとも限らないって?」
ちょっとドキドキしながら実乃梨に問いかける竜児。
「いや、それがね。実際不満漏らしてる生徒も多いんだよ。お昼に人がいっぱいで体育館が
使えないって」
「そうだったのか」
「みのりんの言うことなら素直に聞くのよね。ほんとによく調教された犬だこと」
「お前のは単なる自己中心的なワガママじゃねえか」
無言でデコピンを連打してくる大河の手を、竜児は巧みによける。
「だとしてもだな、それで体育館もう一つ建てろだなんて発想が飛躍しすぎだ。我慢しろ、
ガマン」
「高須君冷たいのー」
「く、櫛枝まで……。だから、俺らなんかでどうにかなる話じゃ」
「いや、そこまで無理のある話じゃないぞ高須」
いつの間にか話の輪に混じっていた北村が、メガネをくいと直しながら言う。
「き、北村君!」
「話は聞いたぞ逢坂。バドミントンはいいよな。俺も大好きだ」
「きた、北村君も、スキ……」
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「大河落ち着け。北村、どういうことだよ」
「ん? ああ、先日、この学校の来年度の予算案を見たんだが、かなりの額が老朽化した
体育館を新築するための準備金として蓄えられているんだ」
「マジかよ」
なんとまあ都合のいい。
「それよ! さっさと新しい体育館を建てるように駆けあいましょう! そして、新体育館が
建った暁には、昼休みの使用権を私達が占領し、昼バドミントン部を結成するの!
略して昼バド! 今風に言えば『ひるばど!』ね! これは大ヒット間違いナシよ!」
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「なんだよヒットって……。新体育館の話が本当だとしても、無理がありすぎ……」
呆れる竜児を睨みつけながら、大河は溜息をつく。
「あんた、そんな態度でいいわけ?」
「何がだよ」
大河はそっと竜児に耳打ちする。
「日がな昼休みに、みのりんと一緒にバドミントンできるのよ?」
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「櫛枝と……」
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「シャトルの突つき合いよ、つつきあい」
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「つ、つつき……」
『ほ〜らぁ、たかすきゅ〜ん、それぇ☆』
『はははっ、こいつぅ。それっ!』
『うわっ! もう高須君そんなの取れないよぉ……!』
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『あははっ、悪い悪い!』
『うふふふふ☆』
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『あはははは☆』
「……いいかもしれない! 大河っ、……あれ?」
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「き、北村きゅんと、つ、つつきあい、えへへ」
そこには自らの術中にはまり悦に入る大河が不気味な笑みを浮かべていた。
「ともかく、確かに悪くない話だなそれは! なんか俺もいけそうな気がしてきたぞ!」
「お、高須君も火がついたみたいだね! けどなんか鼻の下伸びてるよ!」
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「うむ、ここは俺も副会長として話に乗るぞ!」
熱い視線を交わした4人は、がちっと熱い握手を交わす。
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「じゃあ行くか、まずは」
「ええ、あのクソ生徒会長に」
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「4人で力を合わせて」
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「新体育館、そして昼バドミントン部の設立を!」
おー! と高らかに掛け声を上げて、4人は生徒会室へと駆け出した。
「……何やってんのあいつら?」
「俺達の!」
「明るいバドミントン生活のために!」
4人は、生徒会室のドアを勢い良く開け放った。
「「「「今すぐ体育館をもう一個作ってください!!」」」」
「寝言は死んでから言えこの馬鹿カルテットどもが!!」
ばちこーん、と辞書が脳天にクリーンヒットする音が4回ほど響き渡った、ある日の
昼下がりの一幕だった。
「……亜美ちゃん混ざらなくて良かった」
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