竹宮ゆゆこ総合スレ SS補間庫
   

 

日記。徒然に。。。2



高須竜児の日記より抜粋。
10月29日。
今日の文化祭、ウチのクラスはホラー喫茶だった。何で俺が店長なんだ!
まぁ店は盛況でなによりだった。それに嬉しいことが一つ。北村が顔を出した時、一緒に櫛枝さんも来てくれた。
こんな事ならやっぱり高須特製のスイーツでも作っておくんだった。
でもどこか浮かない顔をしていた。ろくに口も利けない俺には何をどうすることも出来ない。
今はそれがモドカシイ。


櫛枝実乃梨の日記より抜粋。
10月29日。
せっかくの文化祭。大河は姿を現さなかった。心配で何度か電話をしたけど出てくれない。
メールでは来週はちゃんと顔出すって書いてあった。やっぱりどこか、大河の居場所はココには無いんだと思った。
私じゃ役不足なんだね?ごめんね、大河。


狩野すみれの日記より抜粋。
10月29日。
今日の文化祭、なんとか2日の日程を組みたかったが結局学校側に押し切られた。
この屈辱を晴らすべく、私は来期も生徒会長に成ろうと決めた。
今年、2年であるにも関わらず、私を支えてくれた先輩達の無念を晴らす為にも、来年の文化祭では一矢報いる覚悟だ。
まぁ出し物は去年も今年も大した違いは無かったのが不満といえば不満だな。
でも、1年のクラスのオカマ喫茶と高須竜児のデビル店長は中々に笑えた。北村が何故服を脱いで飛び回っていたのかだけは理解に苦しむ。
高須の奴は相変わらずか。それでも愚痴を零しながらも店長役をやるのも、また相変わらずか…ま、今度買い物に来たら少し安くしてやるさ。


恋ヶ窪ゆりの日記より抜粋。
10月30日。
懺悔って何処ですればいいの?協会?お寺?
文化祭を欠席した逢坂さんの家に今日行ってきた。風邪では無かったようだし、来週からはキチンと学校に来ると約束してくれた。
でも彼女の家は……私は今まで逢坂さんの何を見ていたのだろう。
アレは家じゃない。アレは、檻だ。
手に負えない、きっと負いたくない子供を放り込んだだけの豪奢な檻。
憤りを隠さない逢坂さんの事を私は怖い。でも憤りを隠さない生徒を怖がって突き放す教師に、私は成りたくない。
もう一度、やり直そう。まずは…生徒を信じよう。だから今夜から高須君対策の5重ロックを止めてセコムを解約した。
信じてるからね、高須君。


10月31日。
夜と同じ私。
高須君。先生は信じてたわよ。
少し涙が出た。そして寝不足。今日はもう寝よう。


木原麻耶の日記より抜粋。
11月15日。
今日は冬物を買おうと奈々子と街へ出掛けた。最近私は変だ。まるおの事を追いかけるように目で追うのに、その視界に高須君が入ると彼も追ってしまう。
なんか自分で自分が分からない。
母さんにちょっと聞いた。そしたら母さんも高校生の頃は色んな人に目が行ったって。
自分で思う程、私が気が多いって事じゃないみたい。てかそう思いたいじゃない?
でもこのままでは駄目だ。
北村君と高須君は仲のいい友達みたいだし、その二人をなんて…いつか二人が私を巡って決闘?それはないか。
でもやっぱり、そんなのは駄目だよねぇ

11月18日。
今日、クラスの武井君に告白された。
私はゴメンとしか言えなかった。でも「他に好きな奴居るの?」と聞かれた時、答える事が出来なかった。
多分……好きな奴ら、だから。
ゴメンね、武井君。


櫛枝実乃梨の日記より抜粋。
11月19日。
なぜか突然、C組の武井君に告白された。超びっくりだぜぇ!
でもなんで?って思っちゃうし、私には彼と付き合う理由が無い。彼との未来は見えないもの。
どうしてだろう。皆には見えて、私には見えない。その恋や愛と言うモノを、私にもいつか見える日が来るのだろうか。
最近大河も幾分落ち着きを得た気がする。まぁ周りがなれた所為もあるのかな。
でもなんか違う。きっとウチのクラスにあって大河はお客さんなんだ。
それが少しムカついて、少し悲しかった。

11月22日。
うをぉぉぉ!期末間近!今夜は大河の家で泊り込みで勉強だ。
大河は意外に、と言っては失礼だけど成績は良い。分からないところは教えてくれるし、教え方も分かりやすい。
良い友達をもったよ!あたしゃあ。言うと大河は真っ赤になった。ほんと、可愛い大河。


香椎奈々子の日記より抜粋。
11月26日。
まったく、このテスト前の忙しい時期に信じられない。武井君が告白してきた。
まぁクリスマスも近いし、焦る気持ちも分かるんだけど、正直付き合い切れない。もちろん丁重にお断りした。
第一彼は麻耶にも告白してたのを私は麻耶から聞いてる。他にも何人も。私が聞いただけでも他のクラスも入れて15人。
ホントにもう。彼女と呼べる人が欲しいのか、好きな人と彼氏彼女になりたいのか。彼にはその辺がまるで見えてない。子供過ぎる。

12月3日。
ようやくテストが終わった。今日は自分への慰労を兼ねて少し夕飯を奮発しようかと思ったら、スーパーで会った高須君も同じ考えだったみたい。
気が合うね、高須君。
買い物して歩きながらおしゃべりして。まぁ殆んど会話なんて料理関係だけど。それでも私は楽しかった。気が付いたら私の家の前に。
そしてもう一つ気が付いた。彼はずっと私の荷物を持ってくれてた。結構買い込んだし重かった。私は家に入るまで気にしてなかった。
ろくに御礼も言わないで、まるで持ってもらうのが当たり前みたいに。自分がとても卑しい人間に思えた。そして怖かった。
嫌われそうで、怖かった。



高須竜児の日記より抜粋。
12月3日。
人を殺せば懲役何年だ?マジで調べねば為るまい。今日、スーパーの帰りに香椎さんからとんでもない話を聞いた。
櫛枝さんに言い寄った男が居て、ソイツは他にも何人もの女子に告白してるらしい。
なんか何人かの名前を言っていたが怒りに頭が真っ白で耳に入ってなかった。ごめん香椎さん。
それにしてもどうするべきか。ええい!答えは見えてる!櫛枝さんを毒牙に掛けんとする痴漢野郎は絶対に野放しには出来ん!
こうなったら明日は思い切り顔を作ってソイツを脅かしてやる!人を脅かそうと思って脅かすのは初めてだが、俺はやるぞ!
今日は徹夜でゲームして目にクマを作ってやる。
まってろよ武井とやらーーー!!

12月4日。
今日、我が宿敵と相対しようと思っていたのだがソレは叶わぬ夢と消えた。
俺は学校に着くまで4度の職務質問と2箇所の交番巡りをする羽目に。それほど目付きが悪いのか俺は。
まぁ武井という奴の事ばかり考えていたから多少は心当たりもあるのだが。
結局誤解が解けてお巡りさんも謝罪してくれたのはいいのだが、あのパトカーで校門まで送ってくれたのは余計だった。
俺は釈放された犯罪者の様な扱いを受ける羽目になった。
気を取り直して武井って奴を探してみたら、何やら奴は誰かに午前中に告白して、どう言う訳か病院送りに成ったらしい。
何があったんだ?一体。


逢坂大河の日記より抜粋。
12月4日。
久しぶりに殺意を覚えた。どっかの馬鹿がまた告白して来たのは良いけど、言うに事欠いて「どうせ手乗りタイガーも独りで寂しいんだろ?」だってぇ?
もちろん、手近の机で思い切り退場させたわ。どっかに運ばれてったけど知った事じゃない。
ああ!もう!思い出しただけで腹が鳴るわ!

12月13日。
街中が綺麗。私の好きなクリスマスまであと少し。今日は皆に送るプレゼントを買ってきた。喜んでくれるかな。
見てるよ?と言ってあげたい。居ても良いんだよと言ってあげたい。
私に言ってくれる人は居ないけど……だからせめて、子供達には伝えてあげたい。


香椎奈々子の日記より抜粋。
12月15日。
なんかクラスが浮き足立ってる。まぁしょうがないか、もうすぐクリスマス。そして冬休みだものね。
今年は麻耶と一緒にクリスマスを過ごそうかって話しをした。なんか楽しそう。
麻耶はそれとなく北村君の予定とか聞いてたから一緒にパーティーでも持ちかけたのかな?
明日詳しく聞いてみよう。
夕方スーパーで会った高須君はお母さんのお店で振舞うケーキを大量に作るらしい。腕によりを掛けるって意気込んでた。
その顔を見た子供が泣き出して、オロオロしてた高須君が可笑しかったし、可愛かった。
でも咄嗟に破ったノートで作ったゾウさんで子供は泣き止んだ。高須君、なんの特技?それ。
子供は笑顔で帰っていったし、見送る高須君の顔は優しかった。みんなの知らない彼の顔を見た私は、少し得をした気がした。



木原麻耶の日記より抜粋。
12月16日。
まるおが昨日の返事をくれたけど、どうやらまるおはOKだけど高須君はパーティーには来れないらしい。奈々子に聞いたら夜までケーキを沢山作って、その後はもう寝るそうだ。夜中にお母さんが帰ってから2人でまた祝うんだって。
まるおはパーティー出来るって。まるおと過ごせるクリスマスに胸が躍る。高須君が居ないクリスマスに胸が痛い。
そして、二人と過ごせないクリスマスに、私はどこかホッとした。
まるで二股掛けてるみたい。まだ告白もしてないのに。高須君となんてまともに会話も無い。
少し、奈々子が羨ましい。


恋ヶ窪ゆりの日記より抜粋。
12月18日。
ふっふっふっ。ボーナス万歳!バックでしょ。ジャケットでしょ。あっ!欲しい靴が有ったんだ………貯金しよ。


狩野すみれの日記より抜粋。
12月21日。
生徒総会も終わりこれで一段落だな。今年もクリスマスのバイトを頼まれた。まぁウチもかきいれ時だし断る積りも無いが、年頃の娘だと言う事も分かって貰いたいもんだ。
ま、どうせ今年も相手は居ないが。う〜ん。まるで自分がモテないかの文面だ。断ってるだけだ。うん。自信を持とう。
はぁ…結構堪えるんだけどな。アニキは無いだろ普通。せめてアネゴにして貰えないかな。

12月23日。
ちょっと待て!なんか変な事になったぞ!高須がウチの店に買い物に来た。これはいい。いつもの事だ。何の気なしにあいつ等はクリスマスをどう過ごすのか聞いてみた。ほんの世間話だ。
「俺は母の店で振舞うケーキを作って夜は母と過ごします。北村達はなんかクラスメイトとパーティーらしいですよ」と言っていた高須の表情はどこか穏やかだった。まぁ友人と過ごすのもいいが家族と過ごすクリスマスも良いさ。
どうやらアイツがケーキを作るらしい。器用な奴だ。
で、つい、だ。ホントについ、「いいな。そういうのも」と言ったらアイツが少し考え出して「先輩。もしよかったら、俺と一緒にどうですか?俺の家で二人で」と言いやがった。
大体だな、私と高須は対した接点も無くてだ、いくらそんなどこか余裕を持たせた優しげな笑みで言われた所で私が何故「お、おう。いいかもな、偶には、そういうのも」なんて言わねば成らんのだ!!
なんか不味いぞ!色々と……まぁ服は選んでおこう。礼儀だ礼儀…


高須竜児の日記より抜粋。
12月23日。
今年も去年とあまり変わらないクリスマスになりそうだ。でも良いイチゴが手に入った。明日が楽しみだ。
北村からの誘いも有り難かったが、こればかりは仕方が無いな。でもまぁ櫛枝さんでも居ればお袋には泣いて貰う積りだったが、ま、いいか。
それに狩野先輩と約束もしたしな。しかし先輩も女の子だよな。手作りのケーキを羨むなんて。北村に聞いていたが料理はあまり得意ではないと言うのは本当だったか。でも下級生の俺に教えを請うのもやはり言い出しづらいのだろう。
気を利かせてみて、「俺の家で二人でケーキを作ってみませんか?」と声を掛けてみた。それならば教えるとは成らないだろう。俺は一緒に作る人に対してアドバイスをするだけだ。
うん。我ながら良いアイデアだと思う。ナイス!俺!
先輩も了承してくれたし「いいかもな」なんてやはり照れ隠しだろう。年上で女性だしな。後輩の男子にケーキ作りを教えてもらうのは恥かしいのかも知れない。
大変だなぁ、女の人は。

北村佑作の日記より抜粋。
12月24日。
今日のパーティーは楽しかった。香椎の作ってくれた料理はとても美味しかったし、場所を提供してくれた先生にも感謝だ。
夕方に高須に会った。なにやらケーキの材料を買い込んでいたようだ。
ほんと、あいつの料理の腕は日に日に上がっていくな。
アイツもパーティーに来れれば良かったのに。とは言っても違うクラスだしな、無理にも誘えないか。
うん、来年はまた違った1年になるだろうからその時に考えるとしよう。
今日はとにかく楽しかった。それで充分だ。
そして来年こそ、俺は会長と過ごすクリスマスにしたい。いまはそれを願い事とする。


香椎奈々子の日記より抜粋。
12月24日。
今日のパーティーは楽しかった。私の作った料理の数々はあっさりと攻略された。ほんと、男子は良く食べる。作った人間としては嬉しい限りよね。
先生の家に向かう時、高須君に会った。
びっくりしたわ。高須君ったら黒いスーツに白いワイシャツ。オマケに髪を上げてたから一瞬分からなかった。先に分かった麻耶が凄いと思った。
声を掛けたら彼は気付いてたみたいだけど、麻耶が居たから怖がらせない様に声を掛けない積りだった見たい。気にしすぎよね。
どうやらお母さんの店にケーキを届けに行くところだった。
店の中にも入るし、やっぱり酒場だから制服やジャージは不味いとあの格好らしい。確かに違和感無いけど、染まり過ぎるのもどうかと思うわね。完全にシマを見回るスジの方っぽいもの。言うと彼は凹むから言わないであげた。
精々絡まれないように気をつけてね?と言ったら
「お前達もな。香椎さん。木原さん。じゃな」と言って去っていった。
今夜のパーティーを一緒に出来ないのは、まぁクラスも違うし仕方が無いか。来年、一緒のクラスに慣れるといいね、高須君。
クリスマスに願いが叶うなら、私はそれを、願いとする事にした。


木原麻耶の日記より抜粋。
12月24日。
今日のパーティーは楽しかった。まるおと過ごすクリスマス。なんかウキウキしてワクワクして、私は終始笑顔だったと思う。奈々子に笑われそうだけど、仕方ないのよ!恋する乙女は忙しいの!
だけどどっかで引っかかってたのは来る時に会った高須君だった。
見掛け時思わず「あ!高須君?」と言っちゃったけど奈々子に不審に思われなかったか心配。でも今日の高須君は、何て言うか、決まってた。
確かにちょっとVシネマに出てくる893さんっぽいけど、それでも何時もとは雰囲気が違って、なんか大人っぽかった。てか、大人に見えた。
奈々子と話してる彼を私はただ見てるしか出来ない。
結局まともに話はした事無いのもんね私。でも去り際に私の名前も言ってくれた。奈々子から聞いたんだろうけど、覚えていてくれて嬉しかった。
まるおと過ごすクリスマス。大人な高須君を見れたクリスマス。
今年のクリスマスはなんか楽しい。
来年、もし叶うなら今年と同じ位、ううん。今年よりももっと素敵なクリスマスを迎えたい。その時私の隣に居るのは誰なのか、私にはまだわからない。
でも、きっと奈々子はそばに居る。それだけは願う必要の無い規定事項だと思うから、私の願いはもう叶ったのかも知れない。
そう、思った。

櫛枝美乃梨の日記より抜粋。
12月24日。
今夜は家族でクリスマスパーティー。楽しかった。どうやら弟は高校野球の名門校から特待生の話が来てるみたい。おぉ!我が家の期待の星だねぇ。
私は決めた!私はもう野球に未練は残さない。ソフトで、私は私の夢を見る。そうしないと、きっと私は前に進めない。
このままだと私は何も出来そうに無い。大河は今日もきっと独りだ。
大河の家族の事も、今の暮らしの事も、私は全部知っている。でもそれだけだ。
今の私に出来る事はたかが知れている。そばに居る、それしか出来ない。
でも今夜私が大河の所に行ったって、それはきっと同情だ。友情だけど同情でもある。
私はもっと強くなろう。誰に何を言われても、それがどうしたって言い切れるくらい、強くなろう。
他の誰でもない、私の為に。今夜、私はそれを誓った。サンタさん。私はアナタに何もねだらない。だから聞いて。私の宣言。
他の誰にも言わない。これが私の決意表明。私はきっと強くなる!


恋ヶ窪ゆりの日記より抜粋。
12月24日。
今夜は不思議な夜だった。大学の同期とお酒を飲んだ。かなり早い時間から。
お互い独身でこんな日に二人で逢えるなんて、少し自棄酒気味だったかな。あぁ、自分が悲しい。
彼女と別れて独り寂しく帰ろうとしたらなんか男に絡まれた。そうよね、酒場だもん、酔っ払いの独りや二人、ってか大勢居るんだもの、この独身に絡んで来る奇特な人もいるわね。
「うっさい!」って邪険にしてたんだけど、なんか2人増えて3人の男に囲まれて、ああ、もうなんで私ばっかりって泣きたくなった。前世で何人殺したの?私。
そしたら「おい」って。見たらなんか怖そうな男性が睨んでて、酔っ払いだって3人居るんだし「ああ?」とか凄んでたけど、更に横から「おぉ竜ちゃん。なんかあったのかい?」って黒い服着た怖いパンチが声かけてきた。
酔っ払いは逃げてっちゃった。ざま〜みろ〜だ。
で、私はそのお兄さんにお礼言ったんだけど、なんかフラフラしちゃって、「物騒だからタクシー乗り場まで」ってそのお兄さんが一緒に歩いてくれた。
私はなんか色々と話したと思う。バシバシ背中叩いたりして肩組んで絡んでみたり。今思えば埋められてもおかしくない危険行為。
でもお兄さんは黙って聞いてくれて偶に返事くれて、なんか……嬉しかった。
タクシー乗り場で私を置いて去ろうとしたから「また逢える?」って聞いたら、?って顔してたけど「もちろんですよ」って微笑ってくれた。
名前も聞かなかったけど、私に微笑ってくれた。竜さん…竜…
ヤクザ者と女教師。なんか合わないかな。でも良いじゃない!よし!今夜は竜が如く3を一晩でクリアするんだから!
あの優しい竜さんを想って。


狩野すみれの日記より抜粋。
12月24日。
参った。今夜のクリスマスは私はどこかおかしかった。
あんなパーティードレスみたいなモノを着たのは初めてだし、その、なんか待ち合わせの間中、周囲の視線が痛かった。そんなに似合わないのか?だが何人かナンパは来たんだ。それほど変でもないんだろう。
適当にあしらってたんだが、頭の悪そうな奴等が来た時は面倒だが身体に教えてやろうかと思ってたら高須が来た。一瞬ヤクザかと思ったが、まぁ私以上にそう思ったのが馬鹿共の様で、速効逃げていきやがった。根性の無い。
それにしても、今日の高須は、その、張り切り過ぎというか、似合ってると言うか……割とイカしてたぞ、うん。
「じゃ、ウチに行きましょうか」と言って歩き出した高須を私はまず止めた。
なんだ、別に怖いとかそう言うんじゃなくてだな、早い。そう!早いと思うんだ。私達はその、まだお互いをよく知らない。うん。そう!こういう事は順序というか雰囲気と言うか!いやいや、別に雰囲気さえよければって事では無くてだな。
だいぶ意味不明だったんだろう。高須も、?って顔で停まってた。わかるぞ高須、私も同じ心境だ。
「取り敢えず。今日のところは食事にしないか?実はウチにホテルのディナー券があってな。拝借してきた」そう言うと高須は驚いた顔をしていたが、券を見て本日限定というのと、12時にはクローズするというので納得したようだ。
アイツとの食事は、まぁ楽しかった。どうにも私達は高校生には見えなかった様だ。ウェイターがワインを進めて来たが丁重に断った。
高須が居て便利なのは全てのサービスがしつこくない事だな。私には丁度いい。
食事を終えて高須は私を家まで送ると申し出たが、私はタクシーで帰ると断った。
今日は変な夜だ。あまり高須と居ると、なにかもっと変な夜になりそうだ。
それが良い事か悪い事、私にはわからない。きっと今はまだ、私は判りたくないんだと思う。
ならばそれでいい。今はそれで良いと、私は自分に言い聞かせたんだと思う。


高須泰子の日記より抜粋。
12月24日。
今日はぁ、竜ちゃんのが作ってくれたケーキをお客さんとやっちゃんの同僚の人達と皆で食べた。
すっごく美味しかった。はやく竜ちゃんも一緒にお酒飲めるといいのにねぇ〜。
なんか、外で竜ちゃんが誰かと話してたってお店のボーイさんが言ってた。竜ちゃんってばかっこいいからナンパでもされたかのかな〜。
でも中々竜ちゃんを好きになってくれる女の子が居なくてぇ、やっちゃんは少し心配してるでがんす。
お客さんの商店街組合長さんが、商店街で風船配ってたサンタさんが急に休んじゃったって困ってた。
どうしようかな〜って思ってたら、竜ちゃんどうしてる?って。
バイト代はずんでくれるって言ったら竜ちゃんやるって。
困ってる人をほっとけない竜ちゃんは〜、みんなに優しいでやんす。
やっちゃんが帰ってきたら、竜ちゃんはサンタの格好のままで待っててくれた。
今日は素敵なクリスマス。
だってやっちゃんところには本当にサンタさんが来てるんだもん。
竜ちゃん。メリークリスマス。


逢坂大河の日記より抜粋。
12月24日。
今日はすっごいクリスマスだった!サンタが居たのよ!サンタさん!!
どうせ独りだし、なんか寂しいし、いつもみたくコンビニやファミレス行ったけど、なんか居心地悪くて。
家にも帰りたくないから独りで公園にいたら、風船が前に出てきて、そしたらサンタさんが前に居たの!
サンタさんが私に風船差し出して、ぼ〜っとしてたら、?って首傾げるの。なんかおかしいかった。
私が「私んち誰も居ないから帰りたくないんだ〜」って言ったら暫く考え込んだサンタさんはね?なんと袋からケーキを出したの!
手作りっぽいケーキで、「これサンタさんが?」って聞いたら、コクンって!すっごいよね!サンタのケーキよ!!
サンタさんは懐からフォークを2本出して2人で公園でケーキを食べた。すっごく美味しかった。どんなお店のどんなケーキよりも!
「これで光るツリーが有ったら最高なのにね」って言ったらまた考え込んだサンタさんは急に、ポン!と手を打って私を抱き上げた。
そのまま滑り台を逆走して上まで登って私を肩車してクルって振り向いたら、ソコには夜景が在った。
いつもの私の目線よりずっとずっと高い所から見る夜の街は凄く綺麗で、なんだか少し涙が出た。
サンタさんもビックリしたみたい。なんかオロオロしてたんだけど、紙を取り出して色々折り出した。
このサンタさんは器用なサンタさん。キリン、亀、ライオン、馬も竜も居た。私はホントに笑った。久しぶりに、本当に笑ってた。
でもなんかサンタさんが私と遊んでるのは怪しい、と言うか住宅街にサンタが怪しいのか、「お巡りさんあそこです!」ってどっかのおばさんが叫んだら警官が駆けてきた。
サンタさんは私を抱き抱えて一目散に逃げ出した。すっごく面白かった。
私はずっと大声で笑ってたけどサンタさんは必死だったみたい。それがまた面白くて。ふと私の家が見えたから、ココで降ろしてって言うとサンタさんはそっと降ろしてくれた。
「また逢える?」って聞いたら「お」ってなんか言おうとしてくれたけど、警官が来たからまた走って行っちゃった。
今日は不思議な夜。きっとあのサンタさんは私の事を子供だと思ったのね。でも良いわ。サンタさんだけは特別に許可してあげる。
だってこの寂しい筈の夜を、素敵な光で照らしてくれたもの。きっとまた逢える。だってあのサンタさんは私のサンタさんだもん。


高須竜児の日記より抜粋。
12月24日。
今年のクリスマスはなんか変だったな。これならあの時北村の誘いを受ければ良かったと思う。ま、クラスが違うしそれは無いか。
それにしても私服姿の香椎さんは初めて見たな。なんか新鮮だった。と言うか可愛かったな。うん。きっと今夜もモテた事だろう。
友達の木原さんには悪い事をしたかな。どうも彼女は俺の事を怖がってるみたいだしな。う〜ん。今度一度香椎さんに頼んでそこらの誤解を解いてもらえないだろうか。
しかし、確かA組の担任だよな、あの人。やっぱり俺の事は分かって無いんだろうな。
あの先生、いつも俺を飛ばして当てるから俺あの先生と学校で話した事無いもんなぁ。逢えるか?と聞かれれば確かに学校で嫌でも逢うんだが、逢ったところで分かんないだろ?
ま、酔ってたみたいだし、いいか。愚痴も聞いちゃったし、大変なんだな先生も。
でも折角ケーキを作ったのにな。狩野先輩に教えながらと思ったから1個は作ってあったが、なんで先輩は急にケーキ作りを辞めたんだ?
大体、始めからあの格好ではケーキは作れないだろうし…!!やっぱりアレか!
今日は狩野先輩デートだったんじゃないか?ソレを俺と約束しちまったから仕方なくデートを切り上げてきたとか。
それでケーキなんて作れない格好だから仕方なく食事に。あぁ!なんてこった。そうだよな。イブに日程を持っていくなんて俺はなんてマヌケなんだ。せめて昨日にしとけばよかったろうに。今度何か埋め合わせをしよう。
だがまず侘びはキチンとしないとな。先輩に聞いておこう。挨拶に行くのはいつが良いか。
それにしてもあんな可愛い女の子を一人で公園にいらせるなんてどんな親だ!泰子の店に追加で持ってってやろうとしたケーキだったけど、酔っ払い共に喰わせるよりあの子に食べて貰った方がケーキも浮かばれるってもんだ。
あの警官さえ邪魔しなければあの子を家まで送ってやって、馬鹿親の鼻の穴に高須棒でも捻じ込んでやったものを〜。
もうあの子は眠っただろうか。こんな紛い物の凶眼サンタじゃない、本当のサンタに逢えると良い。せめてソレが夢であっても。
あの子にせめて良い夢を。俺のサンタへの願いは、それに尽きる。
さて、もうすぐ泰子が帰ってくる。ケーキは無くなっちまったが、いいさ、偶には俺も酒を飲もう。今夜くらいは良いと、俺は思う。





つづく。