竹宮ゆゆこ総合スレ SS補間庫
   

 

幻のななこ√


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亜美たちのところへ向かった私は入れ替わりにアロママッサージを体験することになった。
マッサージはやめて亜美と話をするべきかな?って思いもしたけど、
こんな機会めったにないんだし…いいよね?

鼻腔をくすぐる心を解き解すような香りに体に加わる心地よい刺激。
本来なら身も心も委ねてしまいたいところだけど、今はそんなわけにもいかない。
体だけ預けて、心に思うのは亜美のこと。

亜美になにかあったのは確実。そしてそれは多分スドバ前に居合わせた3人に関係してる。
まぁ後半は勘の域を出ないんだけど、
正直なところそうであってくれないと私にできることはないもの。
モデルのお仕事や、ご両親との間でなにかあったとしたら、
私には気休め程度の言葉をかけることしかできない。
けど、あの3人に関係してることなら私にもきっとできることがあるはず。

問題は「なにが」起きたのかを知る術がないこと。
亜美とはそれなりに付き合いがあるけど、思い当たるようなことはない。
最近のメール・電話のやり取りにも変わったところはなかったし、
一緒に遊んだときもそれは一緒。

残された可能性としては私の知らない所でなにかがあって、
それを亜美がずっと隠していたって事だけど…もしそうならどうして今になってそれが表に出たんだろう?
いくら考えても、答えも、そこに続く道筋も見えてこない。

頼みの綱の高須くんは記憶喪失だし…ん?記憶喪失!?
そうじゃない!その「なにか」が高須くんの「記憶喪失」そのものってことはないかしら?
記憶喪失って本人にとっても周囲の人にとっても大変なことだし、
亜美に影響を与えた「なにか」になりえるんじゃない?
だけどそれなら「記憶喪失」と亜美がどう関わってくるの?
記憶喪失の原因に亜美が関わってるとか?ダメね…全然分からない。

やっぱり高須くんに記憶を取り戻してもらうのが一番の近道なのかもしれない。
それなら私にとっても彼にとってもきっと「いいこと」のはずだ。

よし、決めたわ。私も高須くんの記憶を取り戻すお手伝いをしましょう。
そのためにはまずさっきの「保険」をフル活用しないと。
うふふ、その前に麻耶にマッサージ中の亜美の様子を聞くことも忘れちゃだめね。


マッサージが終わった私は亜美達と合流することにした。
マッサージのおかげか、その間に考えたことのおかげか、少しだけ視界が明るくなった気がしていた。


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亜美達と合流したはいいけど、
みんなとの集合時間が迫ってるって事でゆっくり話をする時間はなかった。
それとなく麻耶に亜美ちゃんの様子を聞いてみたけどめぼしい収穫はなし。
麻耶…北村くんと一緒でうれしいのは分かるけどもうちょっと友達に気をかけて欲しいな。

着替えを済ませらく〜じゃの外へ。
みんなで改めて能登くんにお礼を言って解散…
のつもりだったけど帰り道で話してるうちにみんなでご飯を食べようってことになったみたい。
北村くんと一緒ってことで麻耶はノリノリだし、
私としても悪い提案ではなかったから麻耶に付き添うことにした。
私達が行くからか亜美ちゃんも一緒に食べていくみたい。
ついでに先生も北村くんの気遣いで参加する事になった。

帰り道の都合で能登くんと春田くんとは別れた後だったんだけどね。
能登くん、なんだか哀れね。心の中で応援してるわ…行動に起こすつもりはないけれど。

と、そんな風なことを考える内に私達8人はジョニーズについた。
各々好きな物を頼み、文化祭の打ち上げの話なんかをしながら和気藹々と食事、
そんな中で実乃梨ちゃんのおばけ屋敷の話を聞いていた先生から思わぬ話題がでた。

「そういえば…みんなは展望台の幽霊の話、聞いたことありますか?」

先生によると神社の先にある展望台で先生の友人何人かが幽霊をみた…らしい。
北村くんが地雷を踏み抜いたせいで、
失恋の古傷が開いた先生が早々にお手洗いへと消えたため、詳細は不明だけど。

北村くん…いい加減にしとかないといつか女の子に刺されるわよ?

北村くんに呆れつつ(こればっかりは麻耶も呆れてたみたい)
先生について亜美と麻耶と3人で思うところを話し合っていると、

「肝試し、やらない?」

「大河!いい!それ、ナイスアイデア!!いつやる?」

「冬休みも残り少ないし明日なんてどう?みのりん?」

タイガーちゃんの突然の提案とそれに反応する実乃梨ちゃん。
なぜか乗り気な北村くんに、タイガーちゃんによって参加が決定された高須くん。
3人(+1人)によってどんどん予定が決まっていく。
なんで真冬に肝試し…流石手乗りタイガーっていったほうがいいのかしらね?
かわいそうな高須くんはタイガーちゃんに逆らえずになんだか微妙な表情のまま黙り込んでるし。
タイガーちゃんは高須くんの記憶喪失のこと知ってるのかしら?

「え〜、あたしはパスだなぁ、明日予定あるし」

麻耶は予定があって行けないみたい…本心は北村くんといたいんだろうけど。
「私もそういうのには興味ないかも。」と私も断る。
正直こういうのはほんとーに興味が湧かない。きっと亜美も同じだろう…

「そう?あたしは面白いと思うな」

え?うそ?なんで?
亜美は普段からそういうの興味なさそうだし、
ましてや今は内心あの3人から距離を置きたいんじゃないかと思っていた。
けど予想に反して亜美の口からでたのは肯定的な意見。
もしかしてあの3人との間になにかあったってのは私の勘違い?

そんなことを考えている内に明日の肝試しの決行が決定。
その後、お手洗いから帰ってきた先生の地雷を、再び北村くんが踏み抜き、
気まずさに耐え切れず誰からともなく解散が宣言された。
北村くん…


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ジョニーズで解散した後の、亜美と麻耶と3人で喋りながらの帰り道。
私は今朝からずっと様子がおかしかった亜美に、
さっきのジョニーズでのことも含めていろいろ聞きたくてチャンスを伺っていた。
けど、高須くんのアドバイスから直接的な言葉は使えないし、
自然に話題をふるのは思いのほか難しくて、話の内容は取り留めのないことばかり。

「らく〜じゃ、最高だったよね〜奈々子」

「麻耶ったら〜、
 本音は北村くんがいたらどこでも最高〜、なんじゃないの?」

「えぇ〜、そんなことないって。
 今日は特にアロママッサージがヤバかったな〜、ね?亜美ちゃん?」

「…えぇ、そうね麻耶、
 ほんとに気持ちよかった〜、また行きたいな〜」

「だよね〜、また能登のヤツがタダ券くれないかな〜」

やっぱり亜美の様子はどこかおかしい。
いつもなら私と麻耶、どちらが話を振ってもすぐに返事があるのに。
北村くんといられて有頂天な麻耶は気づいてないみたいだけど、
さっきから少しだけ返事が返ってくるまでに間がある。それに亜美から話題をふってくることがほとんどない。
なんだか今は考え事をしてるみたい…かな?

「ほんとにご機嫌ね、麻耶
 私はちょっと疲れちゃったなぁ〜、プールでの運動が思ったよりハードだったし…
 亜美ちゃんはどうだった?」

「そうね〜、仕事柄いつも運動してるし、丁度いいくらいだったかな?」

「亜美ちゃんほんとにすごいなぁ、なんていうか…パワフル?
 明日も肝試し行くんでしょ??あぁ〜予定がなければ私も行ったのに!!」

麻耶から予想外のフォローが入る。
肝試し(ていうか北村くん)が麻耶なりに気になってのことだろうけど、
これなら比較的自然に肝試しについて聞けるし、もしかしたらうまく亜美の本心を聞きだせるかもしれない。
心の中で麻耶の無意識の妙手に感謝した。

「女の子に向かってパワフルって…それちょっとひどくな〜い?
 肝試しなんてそんなに体力関係ないじゃない」

「それもそ〜だね〜、ごめ〜ん、亜美ちゃん」

「うふふ、けど私ちょっと意外だったなぁ、亜美ちゃんがああいうのに参加するなんて。
 ああいうのはキライなんだっておもってた」

「そんなことないよ〜」

「あ、私もそれ思った!普段の亜美ちゃんからは想像できないもん!」

麻耶…あなたもしかして亜美のことに気づいてて、あえていつも通りに振舞ってるの?
もしそうだとしたら今までの私は随分とこの親友に対して失礼な考えを持っていたのかもしれない。
親友の行動に感謝と尊敬と疑問を持ちながらもう一人の親友の返事を待つ。

「ただ、今日はなんとな〜くそんな気分になっただけだって〜、ほんとに。
 

 …それに今は、いつもと違うこと、してみたいんだ…」


「え…?」

「な〜んでもない。
 あ、私こっちだから!じゃあまたね、奈々子、麻耶」

「うん!ばいばい、亜美ちゃん。
 奈々子、私もここで帰るね。ばいば〜い」

「…ええ、さよなら、亜美ちゃん、麻耶」

最後の方は声が小さくてつい聞き返しちゃったけど、さっきの言葉の中に亜美の本心が見えた気がした。
意識して聞いていなければ聞き逃していただろう小さくか弱い声。
まるで今にも消えさってしまいそうな儚さを感じた。
亜美は一体どんな思いを込めてその言葉を口にしたんだろうか…

亜美の真意を見抜くことができないもどかしさと、
聞き逃すことなく亜美の、親友の声を聞けたという安堵。
相反する2つの感情が一人帰路についた私の中で渦巻いていた。


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家に帰った私は一人寂しくおせち料理の残りを食べるお父さんを食卓に残し、
自室のベットの上で考えにふけっていた。

「今はいつもと違うことをしてみたい」

亜美が別れ際に言った本心であろう言葉。
きっとその為に今日一日様子がおかしかったんだろう。
いつもと違うことっていうのは、肝試しに参加することよね?
確かに肝試しってのは亜美のイメージから離れているけどそれがどういう意味をもつの??

ただのイメチェン…のはずはないわね。
亜美の様子から考えたらもっと別の、深い意味があるはず。
だけどそれがわからない。

次に考えるのは何故、「今」いつもと違うことをしようとしているのかってこと。
思い当たることといえばやっぱり高須くんの記憶喪失…
けど亜美の言葉を聞いた今、これに関して不用意に動けなくなった。
だって亜美はもう行動を起こしてしまっているもの。

昼間は高須くんの記憶を取り戻すことが一番の近道だって思った。
だけどもしも亜美を動かしたきっかけが高須くんの記憶喪失なら、
記憶を取り戻させることで亜美の思いを無駄にしちゃうかもしれない。

亜美の行動の結果が出るまでは高須くんのお手伝いはできないな…
記憶を取り戻そうと頑張っている高須くんには悪いけど、私にとってはやっぱり亜美のほうが大切だもん。


「あ〜あ、”保険”無駄になっちゃったかな」


思わず口を突いて出た独り言。
思いのほか、それを残念に思っている自分。
なんでこんなにも?亜美のためには仕方のないことなのに。

「保険」、高須くんの連絡先が無駄になったことのどこに残念がる必要があるんだろう?
そう考えてようやく私は気づいた。

あ…私、自分から男の人の連絡先聞いたの初めてだ…

相手に求められて交換したことはあった。
だけど「自分から」は一度もなかった。

元々積極的に動くことを苦手にしていたこと、
中学生の頃くらいから感じられるようになった私の体へ向けられる男の人たちの目線、
そういったことからか私はどこか男の人が苦手だった。
なのに何故、高須くんには私から連絡先を聞こうと思ったんだろう?
亜美のためにどうしても必要だというのなら分かるけどあくまであれは「保険」なのに。

プールサイドで高須くんと話したときのことを思い出してみる。
浮かんでくるのは私を気遣う優しい声、そして真っ直ぐに私を見るその凶眼。
そうさ、高須くんは「真っ直ぐに」私を見てくれていたんだ。

あの時の私の服装は水着の上に上着を羽織っただけ、
春田くん辺りならきっと露骨に私の体に視線を送ってきていたはず。
けど高須くんはそうじゃなかった、しっかりと私の眼を見てくれていた。
その眼光こそ鋭かったけど、今思えばそれだけ真剣に私のことを考えていたんだろう。

私はあのときの高須くんの態度がうれしかったのかもしれない。
男の人に優しくされたことはあっても、そこにはいつも下心が見え隠れしていた。
下心を感じることなく男の人に優しくされることなんてほとんどなかった。
同じ「優しさ」でも下心のあるなしでこうも印象が変わるんだ…

彼の優しさに気を許し、亜美のことを打ち明けた私。
私の行動と彼の行動を比較して罪悪感を持った私。
偶然とはいえ彼が記憶を取り戻す助けになれたことに安堵する私。
彼が不意に見せた子供っぽい表情をどこか身近に感じた私。
ただの保険と言い聞かせながら「自分から」彼との接点を持とうとした私。

昼間の私は自分でも気づかないほど自然に彼を頼っていた。
彼に対する信頼から彼に亜美のことを打ち明けた。
罪悪感を持ち、それがなくなったことに安堵したのだって根底にそれがあったから。
彼を「頼れる人」だと思ったからこそ子供っぽい表情を身近に感じ、そして「自分から」行動した。

優しくて頼れる人…ね。
昨日までは目つきが悪くて近づきがたい人ってイメージしかなかったのに、
たった一度二人で会話しただけでそのイメージが大きく変わってしまっている。

人はみかけによらない、そんな簡単なことを忘れていた自分を戒めつつ、
湧いてくるのは彼に対する興味。
もっと親しくなれば、彼は一体どんな意外な一面をみせてくれるんだろう。

……このまま「保険」を無駄にしちゃうのはもったいないわね。


               *******
お父さんの催促で準備したお風呂に入った私はベットの上で携帯を片手に考えにふけっていた。
さっきまでと違うのは考えてることが亜美のことではなく高須くんとの「保険」のことだってこと。
彼に興味が湧いて「保険」を別の目的で使おうって決めたのはいいんだけど、
具体的にどうするか全然いい考えが浮かばない。

そもそも最初は亜美のためにそれを使うつもりだったし、彼もそのつもりでいるだろう。
さっきからいろいろメールの文面を考えてはいるんだけど、どれもこれも不自然なものになってしまう。
最初に亜美のことに関係したメールをするって手を考えたんだけど、これはリスクが高い。
優しい彼のことだから、そうすればきっと話に乗ってきてくれる。
だけどそれは彼が記憶を取り戻すきっかけになりかねない。
亜美のために、そして彼女を心配する私のために彼は必死で記憶をとりもどす糸口を探すだろう。
私の送るメールの文面や今までみんなと交わした会話。
一体何がきっかけになるかわからない以上不用意に刺激するわけにはいかない。

もう一度文面を考えるためメール作成画面を開くと、
それとほぼ同時にメール受信中のアイコンが点灯した。

「from:高須竜児
 クリスマスイブのパーティで何かがあって、それを大河が知っているらしいってことが分かった。
 結局アイツは何も教えてくれなかったが、どうにかその周辺のことは思い出せた。
 だけど肝心のパーティのことがどうしても思い出せない。
 川嶋にも関係してることかもしれないんだが香椎はなにか思い当たることはないか?」 

クリスマスイブのパーティか…
真っ先に思い浮かぶのはタイガーちゃんと2人でステージに立っていた亜美の姿。
けどあれがその「何か」とは思えないし、他に思い当たることは…

そういえばあのステージの少し後、急に亜美の姿を見なくなたっけ…
最後に見たのは…確か……

そうだ!あの日最後に見た亜美は確か高須くんと話をしてたわ。
もしかしてそこで何かあったの?
タイガーちゃんの姿もステージ後見なかった気がするし、
それならあの娘が何か知っててもおかしくない。

クリスマスパーティについて知っていることを高須くんに返信しようとして手を止める。
果たして彼にこのことを話していいのだろうか?
これでもし記憶が戻ってしまったら亜美の思いはどうなるの?
クリスマスに何があったかを知ることと、今の亜美の思いを優先すること。
どちらが亜美にとって「いいこと」なんだろう?

亜美の思いを優先する。
聞こえはいいけどそれは私にとって何もかも不確かなまま事態を放置するってこと。
一方クリスマスになにがあったかが分かれば、
今はまだ見えてこない亜美の真意が見えてくるかもしれない。
そうすればきっと私が彼女のためにできることが見つかるはず。

…そして高須くんも記憶を取り戻すことを望んでいる。

覚悟を決めた私はメールの作成を再開し、私の知る限りのことを彼に伝える。
彼からの返信を待つ時間がもどかしい…何度も新着メールを問い合わせてしまう。
そうやって待つこと20分。ようやく彼からの返信。

「from:高須竜児
 川嶋と話したこと、別れ際のアイツがどこか不機嫌だったってことは思い出したんだが、
 肝心の話の内容が思い出せない。他に思い当たることはないか?」

ダメだった…
知ってることは全部伝えたし、他に私に残されてるものと言えばパーティ中にとった写真くらいしかない。
メールでってのがダメだったのかしら?
やっぱり電話で直接話したほうが情報量が多いはずだし…
そう思い電話をしてもいいかメールで聞いてみる。
間もなくして彼からの着信。

「もしもし、高須くん?」

「おう。…すまん、何も思い出せなくて」

「気にしないで。こればっかりは仕方ないことだもの。
 私が知ってるのはさっきのメールで伝えた分が全部なの。後はパーティで撮った写真があるくらい…」

「写真があるのか?迷惑じゃなければそれ見せてもらえないか?
 何か思い出すきっかけになるかも知れん」

私の手元にある写真は携帯で撮ったものとデジカメで撮ったものの2種類ある。
携帯で撮ったほうはメールで送れるけど、デジカメで撮った方は無理。
…それなら一度会った方が早いわね。

「写真を見せるのは構わないんだけど、メールで送れないものもあるから…
 ねぇ、高須くんさえよければ一度会わない?
 そうすれば全部の写真をみせれるんだけど、どうかしら?」

「香椎さえよければ是非そうして欲しいんだが…いいのか?」

「気にしないで。
 困ったときはお互い様よ。それにこれは亜美のためでもあるんだしね。
 会うのはいつがいいかしら?高須くんの予定は?」

「それなんだが…香椎は明日予定あるか?
 できれば明日の肝試しまでに会いたいんだが…」

「明日?随分急なのね?」

本心を言えば肝試しの後のほうがいい。
亜美のことを考えれば、明日一日は彼に記憶喪失のままでいてもらったほうが都合がいい。
クリスマスの出来事を知るのはその後でも遅くはないはずだし…
そう考えながら彼の答えを待つ。

「…明日の肝試しには俺なりに思うところがあってな。
 もちろん無理にとは言わんが、予定がないなら明日会えないか?」

プールサイドで亜美のことを真剣に考える高須くんの顔を思い出す。
きっと電話越しの彼も同じ顔をしているだろう。
彼に対する信頼を自覚すると同時に昼間感じた罪悪感が蘇り、咄嗟に答えを返してしまう。

「分かったわ。明日会いましょう。
 場所はスドバでいい?時間は…そうね14時くらいでどうかしら?」

「ああ、それで頼む。無理を言って本当にすまん。」

「うふふ、気にしなくていいって言ったでしょ?
 それじゃあもう切るわね、また明日、高須くん」

「ああ、また明日」


通話を終えた私は携帯の画面に目を向けたまま時間を忘れ、ただただ考えていた、
一度は亜美を優先すると決めながら、今は彼を優先した自分の選択について…