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そんなこんなとらドラ 4
- 「麻耶ー!待ってよー!!」
奈々子は声を上げ麻耶を止めようとするが、麻耶の足は止まることをせず、亜美もまた動こうとはしない。
「もう!」
奈々子が麻耶を追いかけようとした時、不意に腕が掴まれる。
「!・・能登君?」
ソコには能登と春田が居た。腕を掴んでいたのは能登。
「あ〜・・・わりぃ、香椎。木原、俺追うわ」
「え?」
「じゃあな!春田!」
言って能登は麻耶を追い掛け姿を消した。
能登の後姿に目を奪われていた奈々子と春田が亜美に視線を戻した時には、亜美はもう校門を後にするところだった。
その背が、誰も来るなと物語っていた。
「・・・・亜美ちゃん」
「・・・・・・でぇ、奈々子様ぁ。結局何がどうなってんのかぜ〜んぜんわッかん無いんだけど」
残念な奴である。
「・・・・幸せそうね?春田君」
「ふぇ?う〜〜ん・・・!!おお!そうだ〜。こんな時は皆で軽井沢行こう!軽井沢!いいよ〜。気候も良いし」
「さよなら。春田君」
奈々子は一人、学校を後にした。
「う〜ん。高ちゃんと、亜美ちゃんと、木原や奈々子様とか〜。タイガーや能登も〜。北村と櫛枝も呼んでさ〜。軽井沢良いと思うんだけどな〜〜。そんでもって」
独りで延々と妄想を語る春田だった。
「待てよ!木原!!」
能登は何とか麻耶に追いついていた。
呼べど叫べど振り向こうとしない麻耶に痺れを切らし、その腕を掴んで立ち止まらせる。
-
「っ!しつこい!!何よ!能登!!」
「何だよ!お前今日おかしいぞ!朝も川嶋に、さっきだって、アイツ尋常じゃなかったぞ?お前一体川嶋に何したんだよ」
「アンタには関係ないでしょ!」
麻耶にも焦りがあった。
確かにあの日、自分と竜児は一つになった。でも恋人同士になった訳ではない。
亜美と別れたとはいえ、はい!次!とばかりに自分の下に来る男では無いと分かっている。
あの日の事も、弱った竜児の心に、どこかつけこんだ所があった。それは自分でも意識している。
メールや電話はする様になった。自分からではあるが、それは楽しい一時だ。
竜児の話す、大河や泰子の日常は、それはどこか穏やかで暖かく、ソレを見る竜児の目は優しくて、自分の中の彼への気持ちを大きくする。
だがそれだけだ。特に二人きりで逢う時間を持つでもない。自分の体を求めて来る訳でもない。
それでも少しずつ。自分は竜児に近付いて行ける筈だった。
ソコに、亜美が戻ってきた・・・・同じ人を好きになった者同士。分かる。
彼女はまだ、竜児を好いている。朝は分からなかった。彼女の良いように腹がたっただけ。
でも今さっき、あの下校時に会った時、確信した。
ソレは麻耶の焦りを生んだ。でも・・・・引かない、と決めた。
「コレは私と亜美の問題なんだから、アンタには関係無い!鬱陶しいから付いて来ないで!」
やや今の麻耶はささくれ立っているのかも知れない。心が。
歯に衣を着せない物言いになっている。それでも能登は止まらない。
彼もまた、一つの決断を下さんとしていたから。
「お前ら2人の問題じゃ無いだろう?どう見たって高須だって絡んでるじゃねぇか。川嶋は高須と別れたって言うし、そんでこのお前との、だ。
どう考えたって変だし、誰だって心配するだろう!」
能登は考える。
朝、確かに亜美の様子は変だった。どこか竜児との付き合いを否定した発言。
竜児に愛想を付かした?そんな筈は無い。それは誰もが思っている。
でも今朝は、別れてせいせいしました!って感じの物言いだった。過去には何の興味もなさげな。
竜児の友として、確かにやるせないモノが在る。それは分かる。
でも麻耶が亜美の頬を叩くには他の理由が必要だと思う。
「・・なぁ。お前なんで今朝川嶋をひっぱたいたんだ?」
「・・・・・・・・」
「それにさっき」
奈々子の声が聞こえて視線を向けた時、既に麻耶は校門へ向かってた。
奈々子の様子で尋常で無いものを感じたし、今朝の事も有った。
奈々子を制して自分が麻耶を追い掛けたが、際に亜美の横を通り過ぎた時、視界によぎった亜美の表情は、凍り付いていた。
「お前川嶋に何言ったんだよ!川嶋があんな顔するなんて・・・お前「能登君も亜美の味方なんだ」はぁ?」
-
突然の方向性。
-
「誰も味方とか敵とかそんな事」
「だってそうでしょ?男はみんな亜美の味方で、亜美の言ってる事は正しくて。そおうよね、確かに正しいわ、亜美の言ってる事。
事実だと思う。でも違う・・・りゅ・・高須君がどんな気持ちで亜美と別れたかなんて、亜美も、誰も、考えてない!そんなのって無いじゃない!」
「高須の気持ちって・・・ちょっと待てよ、今はお前の話を」
「違うの?どうせ能登だって亜美の事「そんなんじゃねぇよ!!」能登?」
それだけは譲れない。
-
「俺は川嶋の味方なんかじゃねぇ。川嶋に惚れてもいねぇ」
「・・・・・・やめてよ」
もう・・・止まらない。やめない。
「俺が惚れてるのは・・・・お前だ。俺は木原、お前の事が・・・・好きなんだ!」
それはいつから有った想いだろう。でも確かに芽生えて、育って、今、吐き出した確かな想い。
「くそ!何だよ!こんな時に、こんな風に言う積もりなんか無かったのに・・・・でも俺は」
「やめてよ!!」
「木原?」
どこかその目には・・敵意があった。
「私が欲しいのはアンタじゃない!わた・・・私が・・・欲しいのは・・・好きなのは」
「・・・!!おい!お前」
能登を押し留めたのは麻耶の頬をつたう涙。そして・・・言葉・・・想いのこもった、言の葉だった。
「高須・・・竜児が・・・良い・・・・届かなくても・・叶わなくても・・・竜児が好き・・・・竜児が良い・・」
その日から再び、川嶋亜美は学校に姿を現さなくなった。 映画の撮影が忙しくなったんだろうと云うのが大筋の見方。
もちろん、違った見方をするものも居たが、それは簡単に口に出せる事ではなく、クラスの空気はいつの間にか、亜美の話題を避ける様になっていった。
「あれ?高須は?」
「ん〜〜?あ〜。高ちゃんなら進路の事でゆりちゃんに呼ばれて職員室だよ〜」
「そうか・・・?能登はどうした?」
「さ〜?な〜んか最近、一緒にご飯食べないんだよね〜能登っち」
「ふむ」
北村は顎に手をあて思案するそぶりを見せる。
-
「北村君?」
大河は不思議そうに北村を見やるが
「なぁ逢坂」
「へ!ななな何?」
いまだに真っ直ぐ見詰められると緊張する。
「最近の高須の様子はどうだ?」
「ふぇ?竜児?・・うん。なんか普段は変わんないんだけど・・・時々ね。なんか考え込んでるっていうか・・・言いたい事が有るなら言えば良いのに、あの駄犬」
「どうしたの?北村君」
実乃梨は何かに感づいた風だ。
ふと、北村の視線を追うとソコには麻耶と奈々子が、他の友達と皆で食事を楽しんでいた。
「う〜〜〜〜ん・・・・・・・うん。いかんな、これは」
北村は何かに行き当たる。
「北村君?」
「ウチのクラスは2年の時から面子も変わってないし、それこそチームワークの取れた良いクラスだ」
「??なになに?なんか出し物??」
春田の妄言はスルーして、ふとここ暫く無人となっている机に目をやる。
皆もその視線を追うと、ソコには亜美の机が。
-
「コレはもう個人の問題ではない!クラス全体の空気、ひいては今後の学業全般にも影響しかねると判断する」
「「うんうん」」「うん・・・うん?って何?」
既に北村・櫛枝・大河・(春田)は教室の隅に移動し密談モード。
「じゃあ北村君」
「ああ。ここは一気に真相の究明と障害の打破、ソレを持って現状を回復しようと思う!異議は?」
「ないぜよ」「きき北村君がそう言うなら私は」「お〜!なんか面白そう!」
ココに反撃の狼煙は上がった。
そしてその行動は・・・・
「そんじゃ〜さ〜。明後日にでも俺が高っちゃんにぃ、な〜んでこんな事になったのか聞いてみるね〜」
「「「・・・・(こくん)」」」
このアホ(春田)の発言により、作戦決行は明日に決まった。3人で平和を取り戻そうと誓ったのだった。
ソレは放課後・・・・・
「あぁ。ごめんね、なんか呼び出しちゃって」
「良いけど・・・・話って何?櫛枝さん、タイガー」
放課後の教室。皆が帰った後に実乃梨と大河は話があると呼び出していた。
「うん。分かってるとは思うんだけど・・・色々聞きたいんだよ、木原さんに・・・色々と」
-
彼女の知る、彼女の中の、真実を・・・・
ソレは放課後・・・・・
「よ!いやあ、突然押しかけて済まなかったなぁ」
「はぁ?ってか何で?」
北村祐作は学校が終わった後に突然押しかけていた。
「やあ。身内の者だって言ったら通してくれたよ。まぁ、今日はちょっと亜美に聞きたい事があってな」
彼女が知る、彼女の中の、真実を・・・・
ソレは放課後・・・・・
「!なんだ?俺に何か用か?」
「ああ・・・・ちょっと、いいか?」
高須竜児の下に、それはイレギュラーな来訪者。
「珍しいな。お前が俺の家にまで来るなんて。何かあったのか?能登」
自らの想いを計る、不意の来訪者。
北村は推測する。
何が有ったのかは今は分からない。
だが何かが有った。それは高須と亜美の身に有ったのだろう。そして今、少なからず、もしくは多分に、麻耶も能登も絡んでいると。
問題はその絡み方だと思う。
枠の中に居る登場人物が各々の事情を十分に把握しているだろうか?それがまず疑問。
予想する答えは否だ。
まずは情報の整理を目指す。それには個々に、そして個々にしか無いであろう情報を集める。
パズルはバラバラでは組み上がらない。まずはパーツをそろえて、全体像を把握しなければ。
北村はまずその事を優先した。
情報さえ揃えば解決策は幾らでも思案の余地がある。
何も今日で全てを終わらす必要は無い。無いのだが、時間も迫ってはいた。
明日には、微妙な人間関係の機微など分かろう筈も無い、年中頭の中は春田(だ)君が直球勝負を仕掛けてしまう。
ともすれば更なる混乱を引き起こしかねない。
最悪、そうなる前に少なくとも現状は正確に把握したい。
ソレゆえの各個撃破では無く、2正面作戦を取ったのだった。
本来であれば竜児を含めた3方同時に攻略したかったのだが、如何せん、コチラは北村と櫛枝が頼りだ。
大河は単体では武力衝突でしか威力は発揮しないだろうし、予備戦力は爆弾付だ(目下タイマー作動中)能登の参戦は北村にとってもイレギュラーではあったが、それは結果としては一度に戦端を開く好材料と言えただろう。
そして彼らの戦いは始まった。3年C組の平穏を取り戻すための聖戦は、今、その幕を開けたのだった。
木原麻耶はその目を真っ直ぐに、櫛枝実乃梨と向き合っていた。
-
「あんまり良い趣味じゃ無いと思うよ?櫛枝さん。個人のプライバシーに口出すのってさ」
既にあらかたの予想は付く。今の現状で、このギスギスした空気は間違いなく自分たちが作り出しているものだ。
ましてや実乃梨や大河は竜児や亜美に近い。
動くなと言う方が無理だろう。
-
「うん。私もそう思ってた。だから今まで何も言わなかったよ。高須君とは少し話したけど」
-
「なによ!それ」
「少しだけだよ。あーみんと別れたって、それだけ。私には、それ以上何も教えてくれない」
-
どこか櫛枝は寂しげだ。
「だったら私だって教えてなんて」
「でも!大河にも何も教えて無い!高須君は、ホントは大河に隠し事なんてしたくない筈なのに、私にはソレが分からない」
「ちょ!みのりん!別に私は竜児の事なんて「なんでよ!」え?」
突然の木原の大声に大河も訝る。
「なんで別になんて言うの?!あの人は貴女の為に!!・・・あなた達の・・・為に・・」
「ちょっと!それどう言う意味よ!アンタなに「私には分からなかった」みのりん?」
実乃梨は一歩前に出る。
「でも考えれば予想は付いた。したくも無いのに隠すのは、ソレが大河にとって良くない事だから。高須君は、大河を守る為なら多分何でも出来る。
その何でも出来る高須君が何もしないのは何故?きっと・・・・何もしない事が、守る事に繋がるから」
「・・・・・・」
「みのりん?」
大河はただ櫛枝を見るが、麻耶はどこか目を逸らす。
「私に言って大河に言ってない事は何?木原さんが動けて私達が動けなかった事は?」
「・・・何のこ「あーみんだよ」!!」
ふと目が合うが、最初の力強さは麻耶には無い。
「多分・・・私も大河も・・・あーみんも知らない事を、木原さんは知ってる。ソレを教えて」
「・・・貴女に教える義理はな「私にじゃない!」?」
実乃梨はスッと麻耶の前に差し出す。その小さな両肩に手を添えて、大河を差し出す。
大河はその大きな目を開いて麻耶を見詰める。
もし実乃梨の言う事が正しいなら?竜児は自分を守ろうとして何かに耐えた。今、こうしている間も。
純粋に、知りたいと思った。知らなければイケナイと思った。
「大河に教えてあげて。大河にはその権利があると思う。だって木原さん」
その声色は優しくもあった。
「大河は、高須君の家族なんだよ・・・高須君が大河を思うように、大河だって高須君を思ってる。その事を忘れてる高須君に、私はソレを教えてあげたいんだ」
-
「・・・・・わた・・しは・・!」
大河は麻耶の手を取っていた。
「教えて、木原さん・・・・・竜児は・・・何を抱えてるの?お願い・・・お願い・・します」
-
「逢・・・・・・そう・・・わかった」
どこかで折れた。竜児にとって逢坂大河が掛け替えの無い家族で有る様に、大河にとっても竜児が家族である事。そしてその、聖域性。
入れない。そう、どこかで折れた。
「私が知っているのはね・・・・高須君が亜美と別れた・・・・ホントの理由」
そうして語りだした木原麻耶の言葉を、最期まで聞く事無く大河は教室を飛び出して行った。
「あんのバカ犬がーーーーー!」と怒声を上げて。
そして全てを聞き終えた実乃梨は小さく「・・ばか」と呟いて、簡単にメールを打つ。
打ち終わって振り返れば、どこか疲れた麻耶が、静かに涙を流していた。それでも実乃梨は続けた。ココから先は、きっと大河は居ない方良い。だから寧ろ好都合だった。
「それで・・・・高須君とは?
北村は映画の撮影所に来ていた。
本来なら入る事は出来ないのだが、亜美の親類と言う事で特例で入り込んでいた。
「ほんと、突然来ないでよね。コッチは仕事なんだから」
「すまんすまん。あっ、今日じゃない方が良かったか?」
「はぁ?別に何時でも困るんですけど。てか、コッチに居るのは今日まで。明日からはアメリカ。ロスで撮影。日本に帰ってくるのは10日後よ」
「そうか。なら今日でよかったな」
「なんの事だか・・・で?話って何」
他愛も無い話をしているが、亜美にも大体の用件は分かってる。
というか、実際、亜美も頭が付いていかないで居た。今は仕事に没頭して、仕事に逃げているだけだ。
何もしていないと視界が歪む。
竜児と寝た。
確かに麻耶はそう言った。
あの表情や仕草は嘘や冗談とは思えない。ならば事実だろう。
もう竜児の中で、自分との事は完全に終わったのだろうか?
亜美は取り戻したかった。もう一度・・・もう一度・・・でもそれはもう叶わない。
竜児を憎む自分が居た。
麻耶を恨む自分が居た。
一方で思う。自分がこんな仕事をしていなければ、こんな事には為らなかったのだろうか?と。
そんな思考のループに、亜美はもう疲れ果てそうだった。
ふと気が付けば北村は携帯を開いてる、なにやらメールを読んでいる様だ。「なるほどな」などと呟いてる。
わざわざ面会に来て、それは不快な仕草。
「あんたね。用も無いのに来ないでよね。私、もう行くから!さっさと帰って!」
荒々しく席を立ってドアに向かう亜美の背中に、声が掛かる。
「なぁ亜美・・・最近、親父さんと会ったか?」
「はぁ?意味分かんないし」
「会ったか?」
「祐作?」
北村の顔は真剣だった。と、言うより、怒りが見えた。
「・・・・ここんトコ忙しくて、会って無いけど?」
「最期に会ったのは?」
「え?そうねぇ・・・・1学期が始まる前、春休みの時、実家に帰った時かな?それがどうしたのよ?」
「そうか・・・・」
「祐作、あんた少し変「高須は会ってるみたいだがな」・・・・は?竜児が?パパに?そんな訳」
不意に北村は手にしていた携帯を机に置いた。
「祐作?」
一歩下がって、北村は亜美を見詰める。
「今、学校で櫛枝が木原と話してる」
「!!」
「お前と木原の間に何が有ったのかは知らないし、ソレは多分俺が知るべき事じゃない。でもな?亜美・・・お前が知らなきゃイケない事が、ソコに有る。
櫛枝が木原から聞き出した・・・・お前達の現実だ」
北村は言うべき事は言ったとばかりに、後ろ手に手を組み、窓の外に向かい亜美に背を向ける。
しばし、亜美は沈黙していたが、ゆっくりと携帯を手に取り、その画面を見た。
「亜美ちゃーん。それじゃあ次は衣装合わせを・・・・あれ?」
10分後、スタッフが訪れた亜美の楽屋には、無残に壊された携帯を弄びながら、笑みを浮かべて椅子に座る北村祐作の姿しかなかった。
それは川原だった。
「一体どうしたんだ能登。こんなところに連れ出して」
竜児には分からない。
「ああ・・・・なぁ高須」
「ん?」
「聞いて良いか?」
「!!」
振り向いたのとの表情は真剣で、今の竜児には彼に聞かれるであろう事が多すぎて、直視するのは難しかった。
「高須!ちゃんと目を見ろ!」
「!!・・・なんだよ?」
「お前、なんで亜美ちゃんと別れた?」
「それは!・・・お前には関係ない・・・」
そう、誰にも関係ないし、誰の所為でも無い。
「なぁ高須。お前周り見えてるか?お前・・・今、誰も笑ってないの!お前ちゃんと見えてるか??!!」
「!!・・・能登・・」
能登の目は真剣だった。そして真っ直ぐ、射抜く。
「お前中途半端じゃねぇか!ちゃんと亜美ちゃんと別れたか?結果じゃねぇぞ?過程の話だぞ?タイガーは?アイツ何にも知らねぇじゃねぇか!
北村や俺や、春田や櫛枝は?お前親友の意味分かってるか?ちゃんと辞書で調べてみろよ!」
能登の言葉は真っ直ぐ刺さる。誰にも何も言って無いから。
自分で決めた。決めると・・・決めた。
「それでも・・・・俺は」
「亜美ちゃんはお前の事まだ好きだぞ?ていうか何も終わってねぇ。なんか一生懸命じゃねぇか!タイガーは待ってるぞ?あの手乗りタイガーが・・お前が言い出すの待ってたんだぞ?
俺達は何にも知らねぇし、お前みたいに強くねぇかもしんねぇけどよ、それでもやっぱ言って欲しいじゃねぇか!
- 関係ねぇよな。お前の言う通りだよ。
でもな?お前は迷惑かもしんねぇけどさ、俺達皆、お前やタイガーや亜美ちゃんと同じクラスで、最高にラッキーだったって思ってんだよ!
他のクラスの奴ら、みんな羨ましがってんだぞ?もう、誰も、お前の問題関係ねぇなんて言えねぇんだよ!」
-
それは能登の想い。クラスメイトみんなの想い。
良くも悪くも、竜児はクラスの真ん中に居た。いつも自分の眼つきの所為で、クラスの端に居た自分が・・・・真ん中に居た。
竜児は始めて思う。
もしかしたら、突き放していたのは自分だったのかも知れないと。
「なぁ高須。俺は木原の事が好きだ。こないだ木原に言った。でも断られたよ。木原はお前が好きだってさ」
「!・・・」
「お前・・・知ってたな?」
「ああ」
「よし。なら問題無いな」
「能登?」
どこかすっきりした能登の声に竜児が不思議を覚えると。
「好きな女を持ってかれそうになった。喧嘩を売るには上等だろ?」
「喧嘩って!なんでお前が」
理由はなんでもいい。その為に能登は来た。
「お前ゴチャゴチャ考えすぎなんだよ。だから・・・すっきりしようぜ?考えすぎとか悩みすぎとか年寄りみたいな事言ってないで、偶にはシンプルに行こうぜ!
訳のわかんねぇ不満なんか、吹き飛ばしてやる!」
それはただの一時凌ぎ。それでも、最高な、一時凌ぎ。
どこか救われた気がした。そしてそんな竜児の視界に、多分、今の自分が待ち望んだモノが見えた。
「悪いな、能登。折角だけど選手交代だよ・・・・古来から、竜に並び立つものは、虎って決まってるからな?・・・・だろ?大河」
能登が横を見ると、土手の上に逢坂大河が立っていた。その手に木刀を携えて。
「ふん!飼い犬の躾は、飼い主の役目だものね」大河はゆっくりと構える。
「手間取らせるなぁ大河ぁ・・・全部忘れるくらい、ボコボコにしてくれ」竜児は手ごろな角材を握り構える。
そして、弾けた。
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
「そう・・・・高須君と・・」
「・・・うん・・・・でも駄目だった・・・どうしたって、竜児の中に私は居ない」
大河が去った教室で、実乃梨は麻耶の話を聞いていた。
麻耶が竜児の優しさに触れた事。
北村との恋の終わりと、竜児への恋の始まり。
そして、亜美との別れで出来た、ほんの少しの竜児の隙間、ほんの少しのめぐり合わせ。
たとえ体を重ねても、決して心が重なることが無かった、麻耶の悲痛。
今はただ、麻耶の涙は床を濡らすだけ。
それでも実乃梨は優しく麻耶を包む。それは自分にもある事だから。
-
「ねぇ木原さん。高須君はずるいよね。こうやって、木原さんの心の奥底に自分の影を落として、それでも彼の心には誰の影も落とさせないで・・・
でもね?木原さん。きっと高須君は違うんだよ」
「え?」
「木原さんにも、私にも、きっと他の誰にだって、高須君は同じ事をしちゃう。それは私達から見たら優しさだし暖かさ。
その裏に何の打算も下心も無い。そんな優しさはホントは有り得ない。その有り得ない優しさが確かに存在するから、きっと私達は高須君に惹かれる。
でもね?高須君はソレを優しさだとは思って無いんだよ。ただの当たり前の事。雨が降ったから傘を差すように、喉が乾いたから水を飲む様に、彼にとっては普通の事。
だから彼には分からない。それがどんなに尊くて、どんなに残酷か」
「・・・・ぅ・・・うう」
「気持ち良いから、嬉しいから、近付いて、寄り添いたい。高須君は受け入れてくれる。彼の中に、誰でも入れてくれる。
それは私達がそれを望んだから。ただそれだけ。理由も聞かないで、入れてくれる。きっと言っても分かんないよ。あの時の君が素敵だったって言ったって、なんで?て顔しちゃう。
でもね?彼の中に入ってしまった私達は、彼の隣に並ぶ事は出来ない。
彼を好きな人じゃない。彼が好きになった人だけが、彼の外に出て、彼と並んで歩けるんだと思う。
たぶん、今、彼と並ぶことが出来るのは、あーみんだけ」
-
「やっぱり・・・亜美には勝てないのかなぁ」
どこか・・・頷いてしまう。
「だってあーみんは高須君の中に入れてとは言わなかったんだよ。きっと最初から。
私は、高須君の優しさに触れて、なんか嬉しくて、どこかでもっと、もっとって思っちゃッた。
木原さんも、高須君に触れちゃった。そして、温まっちゃったから・・・・でもあーみんはね?
独りで立ってたんだよ。弱い自分を隠して、さびしい思いも、怖い思いも、全部を独りで・・
多分、自然じゃなく、高須君はあーみんに、優しくしようとして優しくした。
温めてあげたくて温めた。それは私達とは違う。
同じ結果でも、中身は違う。だから・・・ね?木原さん。私達は高須君の中に居よう。そしていつか、素敵な恋を見つけて、高須君を卒業しようよ」
それは実乃梨から麻耶に送る、同志のエール。
「櫛枝さん・・・・うん・・・・・うん」
この時から、櫛枝実乃梨は木原麻耶の親友になった。
「じゃ!行こうか!」
「え?行くって?」
それはまだ麻耶には分からない。でも実乃梨には確信。
「大河が飛んでったからさ。大河はね、難しい事は考えないで、それでもね?・・・・・一番大事なモノを嗅ぎ分けるんだよ」
「ぅおおおりゃああ」
「ぐはぁ!」
竜児は何度も吹き飛んだ。
別に無条件でやられる積もりなんか無い。
だが基本的に喧嘩なんかしない竜児と、なんだかんだいっても手乗りタイガーである。
すでに一方的に竜児はやられていた。
それでも立つ。まだ、すっきり出来ない。
「はぁはぁ。たいがぁぁぁ!!」
「なめんなぁぁぁ!!!」
がはぁ!!
何度も、何度も、竜児は吹き飛ぶ。それでも大河は一向に手を緩めない。
「このバカ犬がぁ!あんたは私をなめた!私とやっちゃんをバカにした!そんなの絶対に許さない」
「ぐわぁ!」起き上がりざまの竜児を蹴り飛ばす。
「私はそんなに弱くない!やっちゃんはそんなに小さくない!!」
「がはぁ」掴みかかる竜児を投げ飛ばした。
「家族っていったのはアンタじゃない!家族なら守るだけじゃない!守られる事も覚えなさい!!」
「ごふっ!」大河の右こぶしがこめかみを強打する。
「アンタが何をしようが、たとえ人を殺したって、私とやっちゃんはアンタと一緒に生きてくんだ!」
「ぐあ」木刀で背中を打ち付ける。
「後ろ指差されても、石を投げられても、家族として生きていくんだ!」
-
「ぐがぁ!」こぶしが腹にめり込む
大河はおおよその事しか聞いていない。途中で飛び出したし、熱くなって細かい事はすでに飛んでいる。
でも竜児が自分達の為に、亜美と別れる事を決めたと知った。
亜美の仕事を思ったと。
自分ややっちゃんが晒し者になるのを止めたかったと。
キレた。
ただそれだけの事を。
それでも亜美と居て良いか?と、ただそれだけの事を言わないで勝手に結論付けた竜児に、大河はただキレた。
既にやる事は見えている。
竜児をボコボコにしてぼろぼろにしてずたぼろにして。
これ以上無い位に体に分からせてから、一緒に亜美の下に行こうと決めた。
許してくれなくても謝ろう。
許してくれるまで謝ろう。
間違って、傷つけた、川嶋亜美に。
高須竜児の家族として、一緒に謝りに行こうと、決めた。その為に
竜児。もっともっと、分かりやすくなりなさい。
きっと世界は単純な様で複雑で。
複雑な様で、単純なのだから。
「うおおおおおらあああああ!!」倒れこんで、それでも自分に笑みを向ける竜児に大河も最期の一撃をお見舞い
「やめてぇぇ!!!」は、止められた。
川嶋亜美の絶叫で。
亜美は竜児に覆いかぶさっていた。
「亜・・・美?」
「もういいよ・・・竜児、もういい」
亜美はただ竜児に抱きついていた。
-
「お前、どうして」
「聞いたよ。全部聞いた。記事の事も、パパの事も」
「!!お前ど」
「ゴメンね・・・竜児の事・・・・分かっ・・・ゴメン」
竜児はどこか気が抜けた。
大河が居て、亜美が居て。
少し前まで当たり前だった空気が、久しぶりに戻ってきた空気が、心地よくて、気が抜けた。
「なぁ、亜美」
「・・・なに?」
「大河に散々やられたよ」
「そうだね」
「大河に散々言われたよ」
「みたいだね」
「・・・・・まだ、間に合うかなぁ・・・」
それは望み。そして願い。
亜美はふと竜児から離れ、あの顔を見詰める。
「前に竜児言ってくれたよね?だから今度は私の番」
「?なにがだ?」
「ふふ。ココが」
言って竜児の頭を胸に抱く。
「川嶋亜美が、高須竜児の居場所だよ」
「!!」
「川嶋亜美は、高須竜児を愛してる。誰よりも、ね?」
「ああ・・・知ってる」
「ふふ。だと思った」
不意にドンッ!となにかが突き刺さる音。
大河が木刀を地面に突き刺していた。
「ったく、アンタ達、今度から別れ話する時は回りに迷惑かけない様にやってよね!」
-
どこか嬉しそうに。
竜児が思わず笑おうかとした時、土手の上から実乃梨と麻耶の声が聞こえる。
どうやら実乃梨と木原も上手く言ったようだ。と大河は思っていたが、その後ろでは
「で〜?竜児。麻耶の事はどう落とし前付けてくれるのかな?」
「ぐぅ!そ、それはだなぁ」
言いよどんでる竜児の前に、いつの間にかマヤが居た。
「き、木原!」
「ぅおりゃあ!!」「ぐああ!」
麻耶は見事なアッパーカットをお見舞いした。そして
「これで決着!恨みっこなし!・・・で良いかな?亜美」
「麻耶・・・・ばっちり!」
そんな一同が川原で笑い声を上げる中、そぐわない声があたりに響く
「なにをやっている!亜美!」
「・・パパ」
ソコには亜美の父が居た。
「撮影を放り出して何をやってるんだ亜美」
「それは」
ギロっと竜児を睨む。
「既に話は付いていた筈だ。違うかね?高須君」
「・・・・・すいません」
「わかればいいんだ。さあ亜美、早く戻「あの話は無かった事にしてください」る・・なんだと?」
-
竜児はそのぼろぼろの顔を上げ、真っ直ぐ見詰める。
「俺は、俺達は別れません。この先なにがあっても、家族も亜美も、俺は守っていきます」
「竜児」
亜美は竜児に寄り添うが
「ふざけるな!そんな話が通ると思っているのか!」
声を荒げる父の前に、大河が木刀を突き出す。
「キャンキャン煩い犬ね。コイツで黙らせてやろうかぁ?」
本気でやる気だ。
「なんだこいつは・・・ん!そうか!君が逢坂大河か。木刀を振り回して恫喝か?やはり記事の通りでは無いか。
これでは問題にならん方がおかしい。君とて今のそのボロボロの顔、まるで抗争でもしてきたみたいじゃないか。
分からないのか?亜美。既にお前はこいつ等とは住む世界が違うんだ!もういつまでも子供じゃないんだ。いい加減に目を覚まして現実を見ろ」
亜美は大河を押しのけ父の前に立つ。
「何も見てないのはパパの方じゃない!外見だけ見て中身を見ようともしない!どうしてそう・・・もういい!
そんなに竜児やタイガーが仕事の妨げになるならもう仕事なんて辞めるわ!」
それは亜美の譲らない決意だった。
今までソコまで反抗されたことは無かった。
父の怒りは、まさに絶頂を迎えんとしていた。
そして、
「ゆゆゆゆ・・・・ゆるさーーーー」ドガシャアアアアアアんん・・・・
「はい?」
絶叫する父の背後に見えた、超高級そうな黒い車が、なにやらもっと高級そうな馬鹿でかいリムジンに吹き飛ばされて土手を滑り落ちていった。
「なあああああああ!」
絶叫するパパと唖然とする高校生達。
そんなみんなが見詰める中、くだんの高級車の後部座席から降りてきたのは、生徒会長、北村祐作だった。
「へ?北村?」
なんで?と皆が疑問に思う中、北村がすっと道をあけると、そこから
「「ママ!!」」
川嶋亜美の母。川嶋安奈が姿を見せた。
安奈はゆっくりと皆の下まで歩いてきた。
気の所為か、父は微妙に震えてる。
「みなさん、初めまして。いつも亜美がお世話になっています。亜美の母です」
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といって優雅に頭を下げる。
みんなもあわてて、より低くく下げる。
「・・・・貴方が、高須君?」
「あ、はい。その、よろし「まぁ!やっぱりなかなかイイ男じゃない?いいわねぇ。やぱり男の子はコレくらい目が鋭くないと」へ?」
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