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そんなこんな昼ドラ 3
- 竜児は麻耶の家に招かれた。
大河の家程じゃない。でも竜児の家とは比べるべくも無いマンション。
「さ、上がって」
「ああ。って俺びしょ濡れだし不味くないか?っつかやっぱ帰るわ俺!」
踵を返そうとするも
「ココまで来て何言ってんのよ。チョッと待っててタオル持ってくるから」
「ちょ、木は」
もう誰も居ない。
「はぁ・・・ま、いっか」
少しして麻耶はタオルを持ってきて竜児に投げる。
「はい」
「サンキュ!悪いな」
「良いって良いって!う〜ん・・・」
暫く考える麻耶は
「ねぇ高須君。ちょっとシャワー浴びて温まってきなよ。その間に服を用意しとくから」
「な!!幾らなんでもソレは不味いだろ!」
「なんで?」
キョトンとする麻耶
「だ!お前、幾らなんでもクラスメートの男子をお前の家の風呂に入れるか?普通」
「だ〜いじょ〜ぶよ!今、親居ないから」
「だったら尚更だ!!少しは考えてだな」
「平気だよ。あ!それとも高須君ってばウチのお風呂で・・・その・・私のイヤラシイ事とか想像しちゃう?」
「な!!!そんなことしねぇよ!」
「だったら問題なし!そのままじゃ風邪引くし、だいいち下着まで貸す訳にいかないでしょ?
高須君がシャワー浴びてる間に乾燥機かけとけば、パンツくらいならすぐに乾くわよ」
思わず竜児の顔も赤くなる
「パパパパパ、パンツってお前」
「はいはい。わかったらさっさと行く!風呂場はソコ!で、乾燥機はココ!使い方は〜、まぁ高須君なら分かるでしょ」
「あ、ああ」
「それじゃ!行った行った」
「お、おう・・・すまん」
バスルームに消える竜児を見やり麻耶は・・・その場にへたり込んだ。
一気に顔が赤くなる。まさに真っ赤なトマト!よく今まで押さえ込んでたものである。
なんか勢いでこんなんなちゃッたけど、どうすんのよコレ〜!
亜美と別れたってなんで?いやいや聞いた!うん!理由は聞いた!でもだからって!
無い無い無い無い!大丈夫、何も無い!!そうよ!高須君てば紳士じゃない。だから何も問題ない。
そうだ!服!!
急いで父の部屋に行って服を持ってこようとリビングを通って・・・先程は気が付かなかったリビングの散らかりように気付いた。
いやああああああ!!ちょっと何よコレ!!母さん貴女は鬼ですか!!
かか片付け!そう!確か高須君って超が4つくらい付く程、掃除好きの綺麗好きって言ってた無かったっけ?
不味い不味い不味い!!ああ!!!おなべが汚!キャーーー!!父さんのパジャマがなんでリビングにあんのよ!あのボケ親父!!
そうだ!服!!
見える惨状を見えない惨状に押し込めて上乗せし、父の部屋へ・・・・さっきタオルを取りに来た時には気が付かなかったモノに気が付いた。
うぎゃあああ!!!!くさい!ってか痛い!!何よコレ!加齢臭?カレー臭??華麗腐臭なの〜〜〜〜!!!
効くの?これファブリーズ効くの?!ちょっとあの親父まともな服無いじゃない!!何コレ?ピーマって何処のパチモノジャージよ!
ウエストでか!高須君って細くない?せめて余所行きでも良いからって!なんでタンス開けるたびに匂うのよ!!って!この靴下洗ってない!!
いやあああああああああああ!!!!
竜児がシャワーを終わってバスルームを出ると、乾燥機の中の下着はすっかり乾いていて、少しウエストのゆるいズボンと前に麻耶に貸したトレーナーが置いてあった。
着替えてリビングに向かった竜児が見たものは・・・・ぐったりと疲れきっている麻耶だった。
「どしたんだ?お前?」
「ホント、助かったよ、木原」
-
「良いって良いって!あっ待ってて、今コーヒーでも淹れるから」
「いや、何もそこまで」
「良いから。座ってて」
言うや麻耶はキッチンへ向かう。
帰ってきた時には、その手にコーヒーカップを2つ
「どうぞ。まぁインスタントだけどね」
「おぉ。わりぃな」
麻耶にとって、男子と二人きりで過ごすリビングなんていうのはまさに初体験であったが、それでもソレほど緊張しないですんだのは、やはり竜児の事を信頼していたからか、
もしくは緊張する必要が無かったからなのか・・・・
「それでね・・・高須君」
-
「ん?」
どこかリラックスした声の竜児
「さっきも言ってたけど、その・・・・亜美とは・・・」
「!!・・・・あぁ。終わった・・・・・終わりにした」
「そう・・・・でもさ、亜美の気持ちはきっと」
それは麻耶の親友への思い
「・・・・多分、アイツはまだ・・・」
「だったら」
「でも駄目なんだ!」
「高須君・・・・」
「アイツはどんどん有名になる!どんどん光ってく!!今は良い。もしかしたら今は乗り切れるかも知れない。
でもいつまでもって訳じゃ無い。いつか俺はアイツの重荷になる」
「そんな事無い!」
「成る!!アイツはそうは思わないかも知れない。でも周りは?アイツのファンは?世間の目は?」
「そんなの関係ないじゃない!!他の人なんて」
親友の為の抵抗。
「関係なくないだろ?ソレがアイツの仕事だろ!俺達とは違う。まったく関係ない他の誰かが、アイツにとっては大事な他人だろ!それが・・芸能界じゃないのか?」
「それは・・・」
それは分かる。
「木原や香椎、北村なんかは良い。傍にいてもなんの問題も無い・・・でも俺は・・・俺達は駄目だ」
「高」
「俺はどう見たってチンピラかヤクザだ」
「そんな事無い!高須君は!」
「木原だって初めて会った時、俺の事怖かったろ?」
「それは!・・・・・でも分かったもん!高須君は」
「ソレまでにどれくらい掛かった?なぁ・・・ソレを亜美を知る人達全部に分かってもらうまで・・・どれくらい掛かるんだ」
「・・・・でも・・」
「泰子は女手一つで俺を育ててくれた。そう言えば聞こえは良いけどな。結局はガキの頃に俺をはらんで男に捨てられて、水商売で俺を育てた」
「高須君!それは違う!」
「そう見る人が居ないと!なんで言い切れる!!」
「!!それは・・・」
「大河は今までソレこそ問題ばかり起こしてきた。素行不良で学校を出された事だってある。親も大河を見捨てたも同然で、口座に生活費振り込んでそれでお終いって奴だ」
「・・・・・」それは知らなかった。
「いつかマスコミに流されて、叩かれて、亜美の重荷になったら?泰子や大河の事を面白おかしく書かれたら?俺はどうすりゃいい!」
「・・・・・・」
「俺は・・・亜美を助けたい。泰子にこれ以上苦労を掛けたくない。大河を・・・守りたい・・・・」
-
「・・・・高須君・・」
何処と無く理解した。この人は・・・ただ守りたかったんだと。
その為に、自分の中の大事な物を、砕いて砕いて・・・・
親友への思いがあった・・・・そしてこれは、麻耶の女としての想い・・・・
「・・・・竜児」
「・・・・・」
麻耶はふと両手を握り額に当て俯く竜児の隣に座った。
きっと、ずっと苦しんだ。
大事な人を守りたくて、大切な人達を守りたくて・・・自分の大事な想いを・・・差し出した。
あぁ・・・・私はこの人の事が好きだ・・・届く全てを守りたくて、自分を傷付ける事しか出来ない・・・不器用なこの人が・・・
「・・・もう・・・いいよ・・・」
気が付けば麻耶は竜児の頭を自分の胸に抱え込んでいた。
-
「!木は」
「もういい・・・・もういいよ・・・・もういい」
「・・・・・・・あぁ・・・・俺・・・」
どこか力が抜けていく。張り詰めていたものが・・・緩んでゆく。
「一杯頑張った・・・一杯苦しんだ・・・もういいよ。竜児・・・もう、休んで良いんだよ・・・竜児」
麻耶の頬を涙がつたう。なぜ?自分でも不思議だった。
その胸の不規則な鼓動は、竜児に何かを悟らせる。でも、何故か焦りは無い。どこか心地良い。
「・・・お前バカだな・・・なんで・・お前が泣くんだよ・・」
「うん・・・・バカだね・・・でもきっと・・・竜児が泣かないから」
「・・・・・・」
「だからきっと、私が泣くんだよ・・・」
-
竜児の手は、ゆっくりと麻耶の背に回り、彼女を静かに抱きしめた。
「ほんと・・・あの時とは、違うな・・・・・お前の涙の意味も・・・なあ、木」
「麻耶・・・・だよ。竜児・・・私は麻耶」
麻耶は竜児の頭を離し、ただ見詰めあう。
お互いの手をお互いに回し、今はただ見詰めあう。
「教えてあげるね、竜児・・・・さっきのキス・・・私のファーストキスなんだ」
-
どこか頬を染めて、うっすらと涙を浮かべて、それでもその笑顔は綺麗だった。
ソレは不意打ち?ソレは不覚?それとも・・・・・逃げ?
でも駄目だ。それはきっと竜児の意地。
「麻・・・木原。今の俺は・・・・少し疲れてて・・・しんどくて・・・有ればそこに縋っちまう。だからもう」
止めよう。その一言が言いたくて。でもその一言を言わせたくなくて・・・
「止め!!んぅ!!」
麻耶は再びキスをした。
それは・・・・最期の審判。そして宣告・・・
「好きだよ・・・・竜児・・・・貴方が私を見ていなくても・・・私は貴方が好き」
竜児の目から一滴、涙がこぼれた。
自分の中の何かがあげた・・・最期の慟哭だったのかも知れない・・・そして・・・・
「麻耶・・・俺もお前に教えてやるよ・・・・・・これが大人の・・・・・キスだ」
「!りゅ!!んゃ!んん!!っはぁ!!ん!!はっ、竜!んんん!!あぁ」
そして数分後・・・・二人の影は、リビングから姿を消した。
ヴーーーヴーーーヴーーー・・・・・・
竜児の携帯はその振動を周囲に伝える。 着信音は無い。そこにあるのは・・・・・・
「・・・ぁはぁ!・・あい!・・・竜じぃひぃ!!」
「・・・はぁ・・・あ!・・・ん・・・・」
外からの薄暗さを遮り闇を濃くした麻耶の部屋で、互いを貪る2人の声しか無かった。
初めは痛みをともなった麻耶だったが、今はソレはもう無い・・・幾度目かの絶頂を迎える過程で、それは快楽へと移ろう。
「はぁ・・はぁあ!!い!!ちょっ、竜児!!またイ・・っく!!・・・イッちゃうよ!!」
-
「あぁ!!いいぞ!!俺・・も・・」
その激しさは麻耶の意識を刈り取らんばかりに体内を貫く
「あ!駄目!駄目駄目!!ああ・・・あ・・・・・ぁ・・・・・イっ!くぅぅぅぅぅ!!!!!!」
-
「!!ぅおおうぅぅ!!!麻!!!」
最期のゴムがその役目を果たした。
-
「あ・・・ぁあ!・・・ああ!・・・っん!!・・・・!!」
「はぁ・・・・すご・・く・・・・・可愛いな・・・麻耶」
激しく痙攣しながら、それでも竜児に抱きつく麻耶の頭を優しく撫でながら、竜児はその見知らぬ天井をただ眺めていた。
ただ思う・・・
あぁ・・・目茶苦茶だ・・・
鳴り続ける電話の向こうには、大河が自分の携帯を握り締めてた。
「っとに晩御飯の仕度もしないで何処ほっつき歩いてるのよ、あの駄犬は!」
「あ〜〜!大河ちゃん出来たよ〜〜。カップラーメン。大河ちゃんはしょう油だよね〜〜」
「今行く〜〜・・・・っとに、こんな手紙くらいで・・」
大河の前には丸めて捨てたあの手紙。
いつもは大河や泰子に見られる前に竜児が処分していたのだが、今日はあのまま地面に散らばしたままだった。
大河にとっては始めて見た手紙。
どうせ手紙の内容に傷付いて、そこら辺でもほっつき歩いていると思っていた。
「言わせとけばいいのにね〜。負け犬の遠吠えなんだから。やっぱ同じ犬同士、気になるのかしら?」
どこか突き放した言い方だが、それでも心配で堪らないのだろう、竜児の携帯にある大河からの着信履歴は17回を数えていた。
数日。亜美は学校へは来なかった。
数日。日常は怠惰な繰り返しだった。
ただ一つの変化を除けば・・・
「ちょっといいかな?高須君」
「ん?あぁ」
実乃梨のソレを待っていたのは多分クラスの皆だったろう。
実乃梨はかつての様に竜児を屋上へと連れ出した。
「なんだ?櫛枝。話って」
「うん・・・・高須君。あーみんとなんか有った?」
「・・・・・なんでだ?」
ソレは分かりやすい疑問。亜美が仕事で学校を空ける事はよくあった。
それでも竜児の所へは毎日の様にメールや電話は来てたし、麻耶や奈々子の下へもソレはあった。
だがここ数日。亜美からの音信は無い。
大河に聞けば家でも亜美の話題は出ていないと言う。
-
「あーみんと連絡が取れないんだよ」
「忙しいんじゃないのか・・・色々と」
「そうかもね・・・でもなんか・・・・ねぇ高須君」
「・・・・なんだよ」
「私はずっと高須君を見てきた。多分、北村君や大河の次くらいに・・・もう一度聞くよ高須君。あーみんと・・・何かあった?」
「・・・・・・・」
-
沈黙は肯定でしかない。
深く詮索するのは止そうかとも思う。だが実乃梨はどこか確信を持って、今、聞いておくべきだと思った。
どれ位だろうか。沈黙を続ける竜児をそれでも真っ直ぐ見詰め続ける。
折れたのは、竜児だった。
「・・・・・亜美とは・・・別れた」
「!!どうして!」
「それは・・・・櫛枝には、関係無い」
「なんだぁそれは!関係無いってどういうんだ?」
「関係無いだろう!コレは俺達2人の問題だ!」
-
「!本気で言ってんの?高須君」
その視線は強い。眩しいほどに
「ああ。悪いが、櫛枝に話す事は何も無い」
言って竜児は帰ろうと背を向ける。が、その背に暗い声が掛かる
-
「高須君・・・木原さんと・・・何かあった?」
「!!」
その反応は実乃梨の予感を確信に変える。
実乃梨はそれ以上何も言わずに竜児を追い抜き、先に屋上を後にしようとドアに向かい、ふ、とノブに手を掛け立ち止まる。
「ねぇ高須君。私は高須君の事、親友だと思ってるし、どこか戦友だとも思ってる。私の大事な親友の大河を、安心して任せてられる・・・
でもね?・・・・いい加減な事して皆の事を傷付ける様な真似したら・・・・・許さないから・・・それだけは忘れないで」
竜児が返事をしたかどうか、ソレは定かではない。彼女の閉めたドアの音は、どこか答えを拒絶するかのような響きだった。
そしてその夜、テレビ画面に映ったのは、日・米・韓の合作映画の記者会見。そしてその列に並び立つ、川嶋亜美の姿だった。
「ちょっと昨日のテレビ見た?」
「見た見た!凄いよね川嶋さん」
「あれって世界中で放映でしょ?なんか話大きすぎだよねぇ」
教室は亜美の話題で持ちきりだった。
「あ〜。タイガーも知ってた〜?」
アホが大河に話をふるが
「別にバカチーの仕事に興味ないもん。聞いて無いわよ。それにしても竜児も知らなかったみたいだし、竜児に位言っといてもいいのに、あのバカチー」
どうにもソレが面白く無いらしい。
「別に良いんだって言ってるだろ?大河」
「!!よく無いでしょ!大体竜児はバカチーに甘いのよ!」
「そんな事ねぇよ・・・ほんと、そんな事ねぇ」
「竜児?あんた最近おか「おっはよーーー!」!バカチー!」
それは久しぶりの登校だった。
まさに話題の最先端の我等がアイドルの登場に教室内は歓声に包まれた。
皆が亜美に駆け寄り話しかけ、映画の事、共演者の事、最近の事など、一度には処理し切れるはずも無い話題を話しかけていたが、その全てに亜美は笑顔を振りまいていた。
その喧騒に加わらないのは3人。
興味の無さそうな逢坂大河。
どこか強い視線を向ける櫛枝実乃梨。
そして彼女から視線をそらす、高須竜児。
亜美は輪を抜けて大河と竜児の下へ行く。
皆の脳裏には亜美が、竜児〜と言って纏わりつき、ソレの周りを喧しく騒ぐ大河の姿が浮かぶ。
だが・・・
「おはよう。高須君」
「・・・ああ」
それはどこか他人行儀。
「ちょ!バカチー!なによソレ?」
「あら逢坂さん、ごめんねぇ、小さくて亜美ちゃん見えなかった〜」
-
そこは何時も通りだった。でも
「そんな事はどうでもいいのよ!!それよりアンタ今竜児に」
-
「??ああ!なんだ、高須君、まだ皆に言ってなかったんだ。ふ〜ん」
「?竜児??」
「あらあら。高須君たら大事な大事なタイガーちゃんに隠し事は良く無いな〜。あのね?逢坂さん。私達「川嶋さん!」?」
亜美の言葉に割り込む実乃梨を一瞬見詰めるも
「あら?実乃梨ちゃんは知ってるんだ」
「何?みのりん?一体何の」
大河だけじゃない、クラスの皆が静まり、頭に疑問符を浮かべる中、亜美はその疑問符を解消した。
「隠す事無いでしょ?それにすぐ分かっちゃう事だし。丁度良いから皆にも聞いて貰おうよ。私と高須君、もう別れたから」
ええええええええ!!!!
ソレは衝撃だった。
何故だろう、他の恋人同士には無い、何か一種特別なモノが有ると、皆はどこかで思っていた。
ソレが、終わったと告げられた、亜美の口から。
「ちょっと竜児!!バカチーがこんな事言ってるけどアンタそれで!」
「良いんだよ大河」
「!竜児」
「川嶋の言ってる事は本当だ・・・俺達はもう、恋人でもなんでもない・・・・もう、終わったんだ」
「アンタ自分が何言ってるか分かってんの!」
-
大河の視線は凄まじく厳しいものになっている。
自分に知らされなかった事への憤りもある。
何も相談されなかった事への苛立ちもある。
だが何より、大河は亜美を認めていた。
自分の家族の竜児と付き合うことを、竜児の恋人として在る事を、亜美ならば構わないと受け入れていた。
ソレが意味も分からずに別れた等と突然言われて、はいそうですか、と納得出来るほど、逢坂大河は物分りの良い人間じゃない。
「黙ってたのはすまないと思「まぁまぁ、逢坂さん。高須君を責めないであげて」!」
「バカチー!」
「亜美ちゃんてば少しばかり仕事が忙しくなりそうでさぁ。ほら?何かとこうゆう関係って噂の対象になるじゃない?高須君もそこんトコ気を使ってくれたのよ。
別に縁切ったって訳じゃないんだしさ、これからは良いお友達として、ね?それでいいじゃない」
亜美は極上のスマイルをうかべてそう言い放つ。
「アンタ、本気で言ってんの?」
「もちろんよ?」
ソレは亜美のギリギリの策。
納得なんかしていない。了承なんかしてる訳も無い。
だが自分に土下座までした竜児の心を変える方法など、今の亜美には導き出す事など出来ない。
そして必死で考えて、最初から始めようとした。
素の自分を隠した川嶋亜美で、それでも素の部分を分かってくれて受け入れてくれたあの頃に、もう一度戻って・・・また初めから始めようと思った。
壊れたらまた作ろう。何度でも、何度でも・・・大丈夫。高須竜児はまた気が付いてくれる・・・仮面の下で上げてる悲鳴に・・・また、受け入れてくれる。
きっとまた・・・
ソレだけが亜美の望み・・・
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「ちょ!あーみん!」
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「なぁに?実乃梨ちゃん。あぁ、だ〜いじょうぶよ〜。私達、ほんと、円満解決だから。ね〜、高須君?」
「・・・ああ」
「いや、あのね」
実乃梨は亜美を知っている。最初から大河と2人で素の亜美と向かい合ってきた。
駄目になった関係を、時間を戻すように取り戻そうとしている。そんな気がした。亜美の目は、どこか必死だった。
だから実乃利は焦った。
亜美は知らない。大河も、おそらくクラスの誰も。もちろん自分も確証は無い。でもどこか理解していた・・・もう、昔とは状況が違う事を。
コレでは駄目だ。今はもう、コレでは何も取り返せない。
「あーみん。ちょっと私と話」
実乃梨が亜美を教室から連れ出そうと動いた時、それは既に手遅れだった。
ぱぁん!!
「・・・え?」
教室を覆う静寂の中で、亜美の頬から大きな音がした。
「・・・・最低・・・」
ソコには、頬を押さえて呆然とする川嶋亜美と・・・振りぬいた手をそのままに亜美を睨む・・・木原麻耶が居た。
亜美と木原が睨み合っているさなかに恋ヶ窪が来て、その場は有耶無耶に終わる。
だが、亜美の映画出演。竜児と亜美の別れ。そして亜美と麻耶の確執。 これらの事が一斉に巻き起こったクラスにおいて、冷静さを保つ事は難しかった。
大河ですら亜美や竜児の件では言いたい事は、それこそ山の様に有るのだが、木原の乱入でなんとも不完全燃焼だ。
誰もが騒ぎに巻き込まれ、そして誰もが騒ぎに乗り遅れた。 そんな不思議な空気の中、放課後を迎える事になった。
「竜児!ちょっとアンタ!ちゃんと説明しなさいよ!」
帰り支度の最中、もう限界だと言わんばかりに大河は竜児に噛み付くも
「・・・すまん。先、帰るわ」
「ちょ!竜児!!って、北村君?」
足早に帰る竜児を、それでも追おうとする大河を止めるのは北村だった。
「今はそっとしといてやろう逢坂」
「でも」
「まぁ俺からも少し話を聞いてみるさ。何か分かったら逢坂に連絡する。それで良いだろう?」
北村にソコまで言われては、大河に反論する余地は無い。
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「う・・北村君がそう言うなら・・・わかった・・」
北村も二人の事は心配だった。だが今はソレより、麻耶の行動の方が、北村には不自然に思えたのだった。
皆が下校の途に付く中、麻耶と奈々子もまた帰宅しようと玄関を出ると、ふと、前方に人影を見る。
亜美だ。
亜美は1日考えた。そして麻耶と奈々子の2人にだけは、自分の本当の気持ちを告げて置こうと思った。きっと2人は分かってくれると。
確かに朝の自分の言動は褒められたものでは無いと分かっている。故意にそうしているのだから当然だ。
でもそうする事でしか、無くしたものを取り戻せないと思った。そして取り戻す為なら、周囲の誤解も怖くは無かった。でもこの2人にだけは・・・
「あの・・ゴメン。私麻耶に謝りたい事が・・・・聞いて貰いたい事があるんだけど、時間いいかな?」
ふと立ち止まる2人だったが麻耶は一人、亜美に近付く
「いいよ亜美。私も亜美に謝りたいと思ってたし」
思わず亜美の顔に笑顔が灯る。近付く麻耶が浮かべる笑みにどこかホッとしながら
「あ、良いのよそんな。確かに朝のアレは私のやり過ぎだったし。それでね?私ホントは竜児と!え?」
目の前に麻耶が来た・・・筈なのに、麻耶の歩みは止まる事無く亜美の横をすり抜ける・・・すれ違い様に言葉を残して
「・・・・私、竜児と寝たわ」
「!!!」
亜美の瞳は大きく開く。ゆっくりと、それでも確実にすれ違い通り過ぎる麻耶の言葉に、心が凍る。
「掛かって来いって言ったよね?だから・・・・ゴメンね?亜美」
奈々子はただ立ち止まり、立ちすくむ亜美と、遠ざかる麻耶の背中を見詰めるだけだった
「亜美ちゃん・・・麻耶・・・・」
奈々子の前で、2人の親友の心は・・・・・すれ違った。
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