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そんなこんな昼ドラ 2
- 亜美の父との邂逅から数日。
竜児はその心ココにあらずだった。
でもソレは竜児本人に取ってであり、周囲の人にソレを気付かせることの無い様、竜児は神経をすり減らしていった。
皆で行ったピクニックは楽しかった・・・・らしい。 大河に教えたエビピラフは・・・味を覚えていない。
全てはどこか遠くに思えて、現実感が希薄だ。
「なあ〜。なんか最近の高須って変じゃないか?」
「え〜〜?高ちゃんが?・・・・・寝癖?」
呑気なアホはほっとこう。
「まぁ、俺も気にはなってるんだが、高須の奴はなんでもないって言うし」
-
能登と北村は教室の中の竜児を覗き見るだけだった。
それは亜美にとっても感じる事。
いつからか竜児の笑みに影が落ちてる。それは普段は気が付かない程の小さなものだった。それが最近は目に付くようになってきた。
-
「ねぇ亜美。最近高須君変じゃない?」
「ん〜・・・わかんない。でも・・・変よね」
前は偶に言われた。私に何か不安な事でも有るんじゃないかって。
不安て程でもなかったけどね。少しは有った。
それは・・・・・この私の親友の事だ。
なんで気付いちゃうかな〜って思った。竜児の良さに。
そしてきっと・・・・惹かれはじめてると思う。
ただの感。
でも何でかな、そう思った、し、不安になった。
掛かってこいなんて言ったけど、もしホントにそうなったら?
以前の私なら、ホントに上等!ッて感じだった。でも今は違う。
私はきっと弱くなった。守られて、守られ過ぎて、弱くなった。
ねぇ竜児。何が不安なの?ねぇ・・・・遠いよ、竜児。
竜児は亜美の不安を誤解して、亜美は竜児の不安を感じ取り、不安を募らせる。
日は過ぎ行き、重く暗い影は、確実に足元に伸びてくるのだった。そう、確実に・・・
「ふんふふふ〜〜ん♪」
-
ココ2日ばかり泰子はご機嫌だった。
「なんだか最近ご機嫌だな。泰子」
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他愛も無い会話。
「え〜〜?分かっちゃう?なんかね〜ここん所来てくれるお客さんが〜。もの凄く羽振りが良くてお店も大繁盛なの」
「へ〜。この不景気に」
「ホントよね〜。なんか東京の芸能関係の人達みたいでさ〜。すけべなこともしないし、大人し〜く飲んで高〜いお酒飲んでくれて〜。たっくさんお支払いしてくの。
なんか会社の経費で落ちるんだって。やっぱり芸能界って良いよね〜。あ!亜美ちゃんも芸能人なんだから、やっぱりそんな感じなのかな〜。
竜ちゃんはそんな亜美ちゃん嫌?
やっちゃんはそんな亜美ちゃんも好きだな〜。だって亜美ちゃんは亜美ちゃんだし」
「・・・・・ああ」
着実に・・・足元に・・・・・
そして再び竜児の前にあの車が現れたのは、あの日から、丁度1週間が経った日だった。
「やあ。高須君久しぶりだね」
「・・・・・どうも」
「場所、変えようか」
連れて来られたのは近くの高級レストランの一室。
VIPルームとでも言うのだろうか、完全に隔離された個室だった。
「済まないね。まだ食事がまだでね。失礼するよ。あぁ良かったら一緒にどうだい?ココの料理はなにかと絶品でね。
そう言えば高須君は料理が得意だったね。どうだい?口を利いてあげるからココのシェフに色々と教えて貰うと良い。きっと為にな」
「泰子の!」
「ん?」
亜美の父は話を遮る竜児を穏やに眺めている。
-
「母の店にえらく金払いの良い客が最近来るそうです」
-
「ほう?それはなによりだ」
「貴方の・・・・ですか?」
亜美の父だ。出来るだけ言葉は選びたかった。
-
「特に指示した積もりは無いさ。まぁ娘の彼氏の関係者の店だしね、君には・・・借りも出来そうだ。
近くに行ったら贔屓にしてくれ、位の事は言ったかも知れないね」
-
やわらかな肯定。
-
「それがどうかしたかい?」
何となく。どこか間接的に・・・金を積まれた気がした。
-
「君がソレをどう思うかは容易に想像が付くがね?申し訳ないが、それはお店と客の利害関係の話だ。
店に金を使われて面白くないのなら、君がそれ以上の金を使って上げれば良い。高須君。あの店は商売をしてるんだよ?」
「・・・・・・はい」
竜児は自分の予想通り、話の分からない子供では無い。
一つづつゆっくりと・・・逃げ道を潰して行けば、自ずとコチラの意図した方向へ歩を進める。
それは父の思い通りだった。
「ところで高須君。今日君に会いに来たのは、そんな話をする為でも、もちろん僕の食事に付き合って貰う為でも無い。
分かってはいると思うがね・・・もうあまり時間が無いんだよ。結論は・・・いいかな?」
-
「・・・・・・・・」
-
「私も色々と考えたよ?でもやはり現状では如何ともしがたいのさ。でも絶望的じゃない。
亜美がこの映画を成功させて、もっとこの世界でしっかりとした足場を築く事が出来れば、また状況も変わってくる。
今はただ時期が早いと言うだけなんだよ」
-
「・・・亜美は・・・川嶋はなんと?」
-
それは予想通りの問い
「ふぅ・・・それが亜美は分かってはくれなくてね。おそらく君には何も言ってはいないだろう?映画の事も、記事の事も」
-
そう、竜児は亜美の口から何も聞いてはいなかった。
映画の事はもちろん。あの記事の事も。
だから竜児には分からなかった・・・亜美は記事の事など知らない事が。
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「あの子は君には何も言わずに一人で背負う気でいる。そして・・・最悪、映画を下りる気だ」
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「そんな!!だって」
「ああ!チャンスだよ?またと無い大チャンスだ!この世界に替わりなんてごまんと居る。亜美で無ければ駄目な話なんて一つも無い。
そんな幸運を、あの子はまだ分かっていない・・・・何かと君を秤にかければ、今の亜美は君を取るのさ。それがどれ程の不幸であってもね」
あの日曜の前にも聞いた言葉・・・・アイツは俺を選ぶ・・・なら俺は?俺は・・・俺もアイツを選ぶ。例え何を犠牲にしても・・・
亜美と・・・・泰子や大河を・・・・俺は選ぶ。だから今は・・
「俺は・・・・・亜美と・・・・別れます」
俺のこの想いを、犠牲にする事にする。
亜美の父は車に戻るとすぐに走らせた。 自分がこの町に居ることを亜美に知られるのは些か不味い。
「ふぅ。まったく。苦労させられるな、亜美にも」
-
「交渉が上手く纏まった様で、何よりです」
小泉は視線を送る事無く主を労う。
「ははは。子供相手に交渉もないさ。あまりに情報通り、プラン通りで些か拍子抜けだがな」
そう。全ては予定通りだった。
彼は高須竜児を認めては居ない。最初から。
先ず、外見。そして、そこから派生したものは全て否定的に捕えようとする。
物事には裏と表がある。人はその気になれば、自分の都合の良い面を覗き込むことが出来る。
俗に言う、穿った見方と言うものだ。
彼自身が竜児に言った。そういう誤解を解く為には容易ならざる時間と労力が必要であると。
そして彼もまた、その時間と労力を惜しまずして、高須竜児と言う人間を正確に見ることは出来なかった。
「大体、あんなヤンキー顔の何処が良いんだ?亜美は」
-
「奥様は彼を高く評価しているようですが」
「亜美からの話を鵜呑みにしてるだけだ。話にならん。私は私の娘に近付くモノは容赦なく吟味する。頭の弱いバカに娘はやれん!」
「では彼は不合格ですか」
「無論だ。結局最期には自分から亜美を捨てる選択をする。所詮その程度の男だ」
記事の事等知らない亜美は竜児が映画や仕事の妨げに為るとは思っていない。
無論、彼女から別れを切り出すこと等、有ろう筈も無い。
竜児が感じている亜美の不安は、竜児と麻耶の事を思っての不安であり、週刊誌や仕事とはまったくの無縁であるのだから。
だが竜児にとって麻耶とのあの夜のやり取りは自然だった。
彼にとってそれはあまりに自然すぎて、それが誰かの心に何かを残す、といった程の事ではない。それ故に彼には気付けない。
自らの行動や言動が、彼女達に与える影響を・・・それは彼の理解の範疇を超える。
鈍感じゃない。
ただ当たり前の事をして、それがいか程のモノであろうか?というだけだ。
したがってソコから派生する感情は、彼にとっては突然降って下りて来たモノと同義。発生した理由が分からない。
その曖昧で不安定なところに、ほんの少しの方向性。一握りの事実。
必要なのは真実ではない。事実。
それだけで人は人を動かしてゆける。
目に見えない不安を・・・・目に見える不安に変えてあげるだけで・・・・仮初の答えを、人は導き出す。
まるで自らが決断したように。
錯覚を覚えて・・・・
亜美の父は既に次の仕事に頭を切り替えていた。
小泉はそれ以上なにも言わず、ただ車を走らせる。
父親として、コレもまた一つの愛し方なのだと理解は出来るが、それでも決して耳に入る事無く、小泉は息を漏らすのだった。
すまないな。高須君。と・・・・・
竜児が家に帰ると、階段の下に亜美が居た。
「亜美」
-
「や!おかえり、竜児」
あんな事があった所為だろうか。竜児にはそこか亜美が遠くい感じられた。それは亜美にしてもそうだったが。
「なんか、さ。最近竜児って悩んでそうだったから・・・・ほら!竜児ってば頭良くないのに考えすぎるトコ有るじゃない?
なんか悩みがあるなら、この天才美少女のあ〜みんが聞いてあげるからさ!話してみなよ!竜ちゃん?」
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殊更元気に、言ってみた。返る言葉は・・・思ってたものとは、違ったが。
「そうか・・・なら聞いてもらおうかな」
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「うんうん」
「別れよう・・・・亜美」
「え?」
ソレは唐突で、あまりにも突然で、亜美には聞こえた言葉が理解する前に霞んで消えた。
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「ちょ・・・竜児?・・はは。ごっめ〜ん。亜美ちゃんよく聞こえなかったし。もう一」
「別れよう。俺達・・・もう終わりにし」
言葉を言い終える前に亜美は竜児の手首を掴み歩き出そうとする
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「な!亜美?」
「行こう!竜児。おかしいよ竜児。ちょっと、てかかなり変!病院行こう!有り得」
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「そんなんじゃねぇよ!!」
亜美の手を振り解いて二人は向き合う。いや、亜美は俯いて表情は伺えない。
「じゃあ・・・なんでよ?・・・だって・・・意味わかんないじゃん」
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「・・・・・・・・」
「ねぇ・・・・なんで?・・・・・私なんかした?・・・・私竜児になんかした??!!」
顔を上げた亜美は強い視線を竜児にぶつける。
分かっていた。覚悟していた。だから竜児は負けない。
「・・・・お前、今度映画出るんだってな」
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「え?竜児、誰から」
それはまだ誰にも言ってない
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「・・・なんで言ってくれないんだ?」
「それは・・・ほら!まだ本決まりじゃないし、どうせなら竜児もびっくりさせようと思ってさ。そう!今度の映画って凄いのよ!!
アメリカや韓国と合作で、キャストもスタッフも超一流。制作費だってすっごいんだから!
まあ、私なんかそんなに良い役じゃないんだけろうけど、それでもこの仕事には、うん。賭けてるって感じ?
だから撮影が始まっちゃうと竜児にも暫く会えな」
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「凄いよな!ほんと・・・・凄いよ、お前」
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「竜児?」
「もう・・・・勘弁してくれないか・・・亜美」
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「竜児?」
決めた・・・負けない・・・・折れない!
「もう、川嶋亜美の彼氏で居る事に・・・疲れたんだよ。俺・・・・すまない」
亜美には何を言っているのか分からない。
自分は、自分達は、何を何処で・・・・
「何・・・・言ってるの?竜児」
「はぁ・・・」
竜児は一つ、大きく息を吐く。力を入れなきゃ立ってられない。
「だから疲れたんだよ。お前みたいな有名人の恋人ってやつに」
「りゅ」
「最初は良いよ?そりゃもちろん好きだし、俺だって有名人の恋人なんて鼻が高い。
でも限度があるだろう?映画ってなんだよ。ハリウッド?バンビーには意味わかんねぇって。
どだい無理だったんだよな。俺、ホテル代も満足に払えない程度の奴だぞ?お前とは所詮住む世界が違ったんだ」
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「・・・・誰?」
「亜美?」
亜美の目は若干の弱りを見せてはいるが、それでも竜児を真っ直ぐに見詰める
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「誰かになんか言われたんでしょ?ねぇ誰!!」
「誰にも何も言われてねぇ!」
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「嘘!だって急すぎ!マジ突然過ぎじゃない!映画の話だってまだ本決まりじゃないのになんで竜児が知ってるの?おかしいじゃない!
誰よ!ファン?また私のストーカー?言いなさいよ竜児!一体誰!!」
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「だから誰でもないっ」
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「言いなさいよ!!私から貴方を奪うのは!・・奪おうとするのは誰よ!!!許さない!!絶対ソイツ許さな」
「俺自身だ!!」
亜美は既に泣き叫んでいた。そしてソレを掻き消すほどの、竜児は怒声を上げた。
「見ろ!亜美!!」
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すかさず竜児は自分の家の郵便受けを開く。ソコからは大量の手紙がばらばらとこぼれる。
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「なんだと思う?なんだと思う!!」
「・・・なに?・・・これ・・・」
一つ手に取る・・・・・『死ね・・・害虫』と書いてある。
二つ手に取る・・・・・『亜美ちゃんをシャブ漬けにしたのか!!鬼畜』
三つ・・四つ・・・・どれも・・・・これも。
亜美はただ呆然と手紙を見る。
「毎日この有様だ。よっぽど世間様は俺みたいなヤンキーがお前と付き合ってるのが憎いらしい。
なぁ亜美。俺は何をした?お前と付き合って、お前を抱く事は、ソレはこんな事を言われなきゃなんねぇ程悪い事なのか?」
「こ・・・こんなの何処にでも在る中傷じゃん。ほっとけば良いのよ!こんな」
-
「お前は芸能人だから慣れてるだろうけどな、俺はこう見えても一般人なんだよ!こんな顔してたって俺はこの手紙一枚一枚に傷付くんだ!」
「・・・・・いや・・・」
「もう勘弁してくれよ・・・・もう俺には・・・無理だよ
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「嫌・・・・・いや・・・・い・・ゃ・・・だぁ・・・・」
-
既に亜美には言葉を繋げる力は無い。いまはただ、拒絶を見せるだけ。それしかもう無い。
ソレを・・・・断ち切る。
「・・・・お願いします・・・・俺と・・・・・別れてください」
竜児が亜美の前で土下座をした時、二人の間の細い糸が・・・・断ち切れたのだった。
「はい・・・・はい・・・ええ。それで・・・・亜美の事、よろしくお願いします・・・じゃ」
携帯をなんか面倒くさげに放り投げて、竜児は一人ベンチに腰掛ける。
亜美が泣きながら去り、宛てもなく彷徨い歩いて・・・少し疲れた。
やがて夜が来て、その雲が空を覆い、空が派手に泣き出すまで、ソレほど時間は掛からなかった。
どれ程の時が過ぎたのだろう・・・・気が付けば雨が止んでいた・・・?止んでない?
竜児の前には、自分に傘を差す、木原麻耶が立っていた。
「・・・・・木原?」
「やっぱり高須君じゃない!どうしたのこんな所で!ってびしょ濡れじゃない!!」
-
どこか可笑しい。だってそれは
「はは・・・木原、それじゃ俺のパクリだ」
「へ?あっ!・・・ホントだ」
-
「くっくくく」
「ふふふふ」
「「あはははははは」」
-
ああ。なんか、もっと笑いたい。そんな気分に、なった。
「ねぇ、なんか有ったの?」
「・・・・・・・」
竜児の隣に腰掛けて、麻耶は静かに語りかける。
雨は以前、その雨足を弱める気配は無い様だ。
「・・・・亜美と」
「!!」
ビクンと反応する竜児を見逃さなかった。
「やっぱり・・・・なんかあったんだね」
「・・・・・・・」
「いいよ。言いたく無いならそれでも。でも私はココに居るよ」
「・・・・なんでだよ」
「ふふ。だって居てくれたじゃない?私がしんどくて、辛くて、どうしようも無い時に・・・居てくれたじゃない」
「あれは!・・・散歩コースだ」
穏やかに麻耶は微笑む。
「ココ、私の散歩コースなんだ」
「ココか」
「そ!ここ」
「座ってるじゃねぇか」
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「ココで座るのもコースなの!」
「そっか」
「うん」
どこか心地良い。雨音さえも穏やかな音色に聴こえるかの様な、そんな一時。
そんな一時を終わらせたのは、高須竜児の言葉だった。
「・・・・さっき・・・・・・亜美と別れた」
「え?」
「・・・・・・・・・別れた・・・・・」
「・・・・・そう・・・・・」
雨音が、一層激しさを増した気がした。
麻耶にはその言葉は信じられなかった。
どうして?なんでよ!
親友の恋愛の終結に、その彼氏を問い詰める筈だった。
その筈だった・・・でも耳に届く自分の声は、どこか優しげだった。
「・・・・・なにか・・あった?」
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「・・・・・・・・」
「話したく・・・・無い?」
「・・・・・・・・」
「いいよ・・・・私はココにいるから・・・・今は、いいよ」
「!!・・・・・・・わりぃ・・」
「・・・・うん・・」
1週間。追い詰められて、追い詰められて・・・竜児は疲れていた。疲れ果てていた。
そして最期の力で、大切な者を守る為に大切なモノを捨てた。
身が・・・・斬られた。思いがした。
どれ程の時間が経ったろう。ようやく竜児の口が開いた。
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「・・・映画・・・」
「!!・・・うん?」
「今度、亜美の奴、映画出るんだってさ」
「・・・そう。凄いね、やっぱり」
「ああ。ほんとにスゲェよ・・・・俺なんかが、そんな奴と付き合ってて良い訳ねぇよな」
「そんなこと」
「やっぱさ!身の丈に合った恋愛をしようって事さ!で、俺達は別れた!そんだけだ」
「・・・・それで、いいの?」
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「・・・ああ」
「後悔、しない?」
「・・・ああ」
「・・・そっか・・・うん。高須君と亜美がそう決めたんなら、それでいいのかもね」
言うや麻耶はすっくと立ち上がり竜児の前へ
見上げる竜児の顔には幾分力が戻ってきてる。
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「ほんと、なんかアノ時と逆だな。で、同じだ」
「ふふ。そうね。でも違うわよ。似てるけど、少し違う。だって高須君は泣かなかったもの」
「ま、男だしな」
「あ〜!差別発言!」
「ほっとけ」
少し、元気がでた。
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「ホント、あの時と一緒・・・・だから」
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「え?・・・んっ!!」
- 麻耶はその身を竜児に傾け、キスをした。
あの夜と同じ様に・・・・
あの夜と少しだけ違う・・・竜児の唇に・・・キスをした。
「お前!」
「ね?少し違うでしょ?」
笑顔を見せる麻耶の、それでも確かに赤い頬は、それが些細な事では無い事を物語っていた。
「じゃ、行こうか」
「は?行くって・・・何処に」
竜児には分からない。色々な事が有り過ぎて、頭がおかしくなったのだろうか。
「私はトレーナー着てないし、流石にコレを高須君に着せる訳にはいかないじゃない?下着姿になっちゃうし」
「ば!下着っておま」
「だから!・・・・ウチ、おいでよ。お父さんの着替え、貸してあげるから」
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「え?・・・・ウチって、お」
「・・・・おいでよ・・・・高須君・・・」
どこかぼんやりと、でも確かに自分の意思で・・・・・竜児は差し出された麻耶の手を・・・・取った
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