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続・思春期
- 「――うぉ、北村!?服を脱ぎ出すな!あと、こっち来んな!!」
「高須!!俺はもうダメだ、我慢できん!上半身裸のお前は最高だ!!」
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い、息が荒いぞ、気持ち悪ぃ!てゆーか、俺の腕を掴むな!
-
「はっはっは!さぁ来い、高須。俺はどこからでもお前を受け止める!!」
-
ふ、ふざけんな!とにかく、離せ!!
「そうか…なら、俺からイクぞ!ほら高須、力を抜け!!」
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「うわ、ズボンを脱がすな!や、止めろ、北村!そ、そこだけは……!!」
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「アッ――――!……ってあれ?」
-
…た、確かさっきまで居間で女子連中に尋問されて、挙句にまた迫られて、
その途中、いきなり暴走し出した北村にまた襲われて…
-
――ゆ、夢、だったのか?俺の貞操はまたしても無事なのか?
ん?「また」って何だ?自分で言ってて訳が分からねぇ。
まさかあんな夢を何回も見てるわけじゃあるまいし…
ま、まぁとにかくだ、北村とはもう二度と関わらないことにしよう。
うん、それで間違いない。
頭を切り替え起き上がる。
そして、最初にズボンとベッドをチェックして、と。
よし、異常なし。…っ何やってんだ、俺。
ゆめせーなんてする訳ねぇだろ、いや、ゆめせーって何だよ。
さっきから意味不明なことばっか頭に浮かんでくるな。大丈夫か、俺――
「竜児ー!!起きろーー!!」
ドンドンと扉を叩く大きな音。そして、大河の声が聞こえてくる。
しまった、もうこんな時間かよ、つか昼!?今日はみんなで勉強会だってのに……
「はい、遅い!入るよー。って、あんたホントに今起きたばっかなの!?この惰眠駄犬!」
-
バンっとドアを開け、部屋にズカズカ入ってくる。
そして寝間着姿の俺を見るやいなや、さっそく罵ってくる。
-
「ところで、何で部屋の匂いを嗅いでんだ、お前は。」
「え?…確かに。竜児んちの悪臭なんか嗅いで何したいのよ、私は。遺憾だわ。
そ、それより、さっさと着替えなさいよ。みんなもう来てるから。」
言いたいこと、気になることは色々あるが、とりあえず速攻で着替えて居間へ。
見渡すって程でもない狭い居間を見渡せば、みんな好き好きにまったりしてる。
-
…ところで、何でウチに集まってるんだ?勉強なら大河の家の方が……
-
「それはさー、高っちゃんちだったら、疲れた時にゲームとか出来るじゃん?」
「春田。お前、勉強する気ゼロっしょ。」
すかさず能登が突っ込む。全くもって同感だ。
おい、春田。お前の点数底上げも今回の目的の一つだってこと忘れんなよ。
- 他を見てみると、木原と香推がインコちゃんと戯れ…
「うわっ、何このインコ?チョーキモくない?」
「確かに、個性的な顔ね…」
って、木原!お前、インコちゃんに何てことを!
「むっ、むかっ、む……」
おう、インコちゃんも何か言い返してやれ!
「…無限ループ?」
-
ダメだ…こりゃ。ていうか、無限ループって何だよ。
-
「みんなー、静かに勉強するでヤンスよー…」
泰子、そんなはしたない格好でいきなり出てくるな!そのまま寝るな!
おい、北村!はしたないに反応するな!それと、ズボンを脱ぐな、こっち来んな!!
…あぁ、ツッコミが追いつかねぇ!
そんな感じで、本格的に勉強する空気になるまでに結構な時間が掛かった。
ウチで勉強会やるのは失敗だ、どう考えても。
そんな賑やかな状況の中、一人だけ妙に静かなヤツがいることに気付く。
そいつは普段はむしろ、誰よりも賑やかな……
「く、櫛枝。どうかしたか?体調でも悪いのか?」
「……今度こそは負けられねー。」
「は?」
「い、いや!何でもないのだ!わははは…」
明らかに疲れた様子で空笑いする櫛枝。…本当に大丈夫なのか?
-
「…おい、高須。何でさっきから俺を避けてるんだ?」
-
北村。お前は俺に近寄るな。頼むから俺の半径500M以内に来ないでくれ。
-
「はっはっは…そんなこと言うなよ!俺とお前の仲じゃないか!」
-
うわ、俺と肩を組むな…!は、離れ…
――その時だ。
俺の部屋の方からドンっと、大きな音がした。
北村を振り払い、慌てて自分の部屋に戻る。
そこには……
「は、春田!?おい、大丈夫か…って。お、お前、そ、それ…!」
-
「ご、ごめん、高っちゃん。マンガ探してたら本が落ちてき……あ。」
転んだのか、春田が痛そうにしりをさすってる。
マンガ探してしりもちをつく?どんな状況だよ…なんてイチイチ気にしない。春田だから。
むしろ問題は、本棚から飛び出した数々の本が散乱していたこと。その中には…
「うっさいわね。なんなのよ…ってりゅ、竜児、ああ、あんた…!?」
本棚に巧妙に隠しておいた、俺の「ひとつなぎの大秘宝」。
…もとい、エッチな本の数々が交じっていた。
俺の次に部屋の様子を見に来た大河が固まって、
それからは例のごとく、他の皆も次々にこの光景を見ては固まっていく。
いや、みんな。違うんだ。こ、これはだな…
- 「みんな、違うんだ!」
春田がこの期に及んで何か騒ぎ始める。ま、マズイ。こ、この流れは…
「今回は事故で見つかっちったけど、高っちゃんのこの隠し場所は凄ぇんだぞ!
他の本に挟んで隠す!俺、その発想はなかったよー。俺なんかさー…」
-
春田…お前はやっぱりどうしようもないアホだ。
頼むから、お願いだから黙っててくれ。
「ベッドの下に隠してたら、母親に見つかった」とかいう話を誇らしげに語るアホ。
-
そんなアホを除く全員が硬直する中、ただ一人。川嶋だけが静かに動き出す。
スタスタと綺麗な歩き方でエロ本のヤマの前へ。
フッと笑ってから、その中の一冊を拾い上げ……お、おい待て!それは…!
「高須くぅ〜ん?こ・れ・は、何かなぁ?」
拾い上げた本から少しだけハミ出していたものを抜き取り、俺に向かって突きつける。
そ、それは…
「わ、私の写真…?」
櫛枝が驚愕の表情を浮かべながら、ポツリと正解を口にする。
…そう。川嶋が掲げたのは、櫛枝の写真。文化祭の写真として合法的に入手したもの。
「こんないかがわしい本に実乃梨ちゃんの写真を挟んでぇ、一体ナニしてたのかなぁ?
亜美ちゃんには分からないから教えてよぉ〜。ねぇ、高須君?」
-
ニマァ〜と口端を歪めて、すっ呆けた調子で問いかけてくる。
「え?高須君って…?」
「高須、お、お前まさか。まさかだよね……?」
完璧な状況証拠に周りの連中も俺に驚愕の視線を向ける。
えぇい。こうなりゃヤケだ。
「…あぁ、そうだよ!俺は櫛枝のことが好きなんだよ!
一年以上も前からずっと好きだったんだ!だから、だから……
その写真でお…自己処理してたんだよ、文句あるか!?」
――ハッと我に返った時には時すでに遅し。バカ正直に全てを白状していた。
部屋中に沈黙が走る。櫛枝を見るが、俯いていてその表情を窺うことはできない。
が、耳が真っ赤なのははっきり見える
- 。
――凄まじい罪悪感。こんな最悪な告白してどうすんだ?
-
しかも、夜のおかずに……なんて気持ち悪いだろ。普通。
…嫌われた、櫛枝に嫌われた。もう終わりだ、おしまいだ。
せめて北村に襲われる前に死のう……
- 「あれぇ〜?私たち、ひょっとしてお邪魔かな〜?
それじゃ〜、お邪魔虫は退散しましょーか?ね、みんな?」
-
「おい、お前ら何をする!?俺はこの後、高須と…!」
能登と春田が北村をガシっと確保。暴れる北村を二人がかりで引っ張り出す。
そして、他の面々も意味ありげな視線を送った後、俺の家を出ていく。
…な、何がどうなってるのかよく分からねぇけど、とにかく皆ありがとな。
あと、春田。ここに来てお前を見直した。サンキューな。
え?北村?俺はそんなやつ知らねぇぞ。
こうして、櫛枝と居間で二人きりになる。
まずはとにかく謝らなきゃ…な。
「く、櫛枝。」
-
「ひゃい!?」
…大丈夫か?
「だ、ダイジョーブ、ダイジョーブ!アナタヲぱわーあっぷシテアゲマショー!!」
「…誰だ、お前。」
-
不可解な言動に思わずツッコミ。いや、今はそんなことより。
-
「そ、それで…ごめん、本当にごめん!嫌いになった…よな?」
-
「い、いやー、ど、どう言えば良いか分からないんだけどさ……」
鼻っ頭を軽くかきながら、櫛枝は苦笑いする。
「正直、ホッとした。」
「え?」
-
な、何がだ?
「高須君が…女の子が好きな人って分かって。」
-
「…はい?」
「あのね、高須君。私、ずっと…そう、夢を見てたんだ。ずっと。
私と大河とあーみんと…とにかく色んな女の子みんなで高須君を取り合うって夢。」
-
「そ、そりゃあ…随分な夢だな。現実じゃまず有り得ねぇ。」
思わず苦笑いする。が、櫛枝は真剣さを少し混ぜたような笑顔で俺を見つめ続ける。
「ま、現実的かどうかは別にして。それで、最近やっと私のターンが来るようになってね。
あともう少しで高須君が私のモノになるってこともあったんだ。でも…」
「でも…?」
「…言っちゃって良いのかね?セーブはちゃんと済ませた?」
「いや、セーブはしてないし、嫌な予感しかしねーけど…構わねぇぞ。」
-
「じゃあ言うぜ?高須君が私のモノになる寸前で、その度に…」
…その度に?
- 「き、北村君に奪われていたのだぁーー!!」
…想像通りの衝撃の内容に、何も言葉にできない。
「……え?よく分からないって?し、仕方ない。もう少し分かりやすく言えばだね…
高須君が北村君に掘られて射せ…」
「分かった、分かったから!だから頼む、それ以上は言わないでくれ!!」
「いやいや。どうせならその時の情事を事細かに話させてくれよ?」
「お願いします、お願いします!それだけは許してください!」
やっと興奮が収まったのか、むふーと息を吐く櫛枝。
いや、俺と北村の情事なんかで興奮して欲しくないところだが。
-
「とまぁ、そんな夢を見続けたせいでさ。高須君は男の子が好きって思い込んでた訳だ。
…実際、何だかんだ言って、満更じゃなさそうに見えたしさ。」
いや、それはないから絶対に安心してくれ。んなもん断固拒否する。
-
「うん。てなわけで、ものすご〜く安心したのだよ。」
「んで、高須君。もうバレバレかもだけどさ、さっきの返事を言わせてくれ。」
さっきの返事……?あぁ、告白のことか。――って、バレバレって……?
「私も高須君のことが好きだ、大好きだ。」
櫛枝はススっと俺の前に来て、そのまま腕を俺の背中に回して密着。
要するに、告白されてそのまま抱きつかれた。
「え?あ…う」
いきなりの状況に言葉が出てこない。そんな俺を尻目に、櫛枝は続ける。
「色んな夢を見て…それで、やっと気付いたんだ。絶対に誰にも譲りたくないって。
でも、気付くのが遅かった。そのせいで、そっから先は……長かった。
本当に、長かったよ。りゅ…高須、君。」
言葉に詰まる櫛枝の背中に手を回して、抱きしめ返す。
どうしようもなく愛しくて、その苦しみを少しでも和らげてやりたいって思ったから。
-
「竜児って呼んでくれよ。み、実乃梨。」
実乃梨の体。それは温かくて柔らかくて――小さく震えていた。
実乃梨は夢というよりかは、限りなく現実に近い形で苦しんでたんじゃないか。
何となくそんな気がした。
しばらくお互いの感触を確かめ合った後、どちらからともなく離れる。そして。
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「え?み、実乃梨?い、いきなり、な、何を……?」
「ナニって…夢の世界の私の敵討ち。悪の根源を絶たないと惨劇は終わらないからね。」
そう言いながら、俺のズボンのチャックを下ろし、息子を器用に取り出して……
――咥えた。
「おうっ!?」 いきなりの刺激に俺の息子が一気に目覚め、大膨張する。
想い人のいきなりの行為に息子がパニックになり、脳中に限界のアラームが鳴り響く。
いや、さっきまで実乃梨を抱きしめてたわけでだな、実はもともと最高潮だったんだが…
「み、実乃梨!もうダメだ!出ちまう!」
「――っ!!」
――息子が吐き出す精液を実乃梨は全て飲み込む。
力尽きた愚息から口を離し、顔を上げて俺に微笑みかける。
…かと思えば、一気に顔を紅潮させ、バッと俺から距離をとった。
「ご、ごめん!竜児君!ちょっと気が動転しちまって…!ゆ、許せっ!
と、とにかくこれで惨劇はおしまいだ。そ、それじゃあ、おいらはお暇させて頂くぜぃ!」
一気にまくし立て、そのまま帰ろうとする。
「み、実乃梨!」
その腕を掴んで、こちらに抱き寄せる。
「りゅ、竜児君!今のは、惨劇を終わらせるためにどうしても必要なことで、
だ、だから、その、決していやらしい意味じゃなくて…!」
真っ赤な顔で必死に釈明してくる実乃梨を見てると、本能が理性を大きく振り切って…
「悪い、実乃梨。もう抑えられねぇんだ、許してくれ…」
「え?な、何が…――」
…
「――…ねぇ竜児君。」
蕩けきっていた頬をキュッと引き締めて、ベッドに横たわる俺に寄り添ってくる。
「竜児君も似たような夢を見てたってホント?」
-
「おう。」
実乃梨が見てた俺が北村に襲われるって夢。
俺もずっと似たような夢を見てた気がするんだ。
-
「そっか。…思うんだけどさ。私たち二人が似たような、んでもって、
-
やたらリアルな夢を見てたって事はさ、その夢は実在する異世界だったりするのかな?」
「そうかもな。」
-
有り得なくはない。確かめる術はないけど。
けど……
- 「もしそうだとしたら、異世界の俺は北村の餌食になったことになるな…」
考えるだけで恐ろしや。思わず合掌してしまう。
「嫌な…事件だったね。まぁそれは置いといて、あれが異世界だとしたら、
他にももっと色んな世界があるんだろうのかなって。
私、色んな夢でみんなと竜児君を取り合ってたの見たしさ。…どれも負けちゃってたけど。」
-
実乃梨の視線の先はどこか遠い。
その夢の実乃梨ってのは、ここにいる実乃梨じゃないのか?
…そう思ったが、真相は俺には分からない。
「…ねぇ、竜児君。私達さ、他の世界の私達の分まで幸せにならなきゃじゃない?」
「お、おう。そうだな。」
「だから、さ。……ね?」
耳元に囁きかけてきた甘い声に、再びスイッチが入る。
そのまま、本能の赴くままに実乃梨を抱きしめる。そして――
…
「――それじゃあね、竜児君。」
-
「悪いな。遅くまで、その…付き合わせて。」
「ううん、大丈夫。何ちゅーか、まぁその、なんだ…良かったし、さ。」
-
おう…っそうだ。もう外も暗いし、家まで送ってくぞ。
「おっ。そいつぁ、ありがたいね。二人の愛についてトークしようじゃねぇか、竜児君。」
-
「おうっ!」
「いってらっしゃ〜い。あ、竜ちゃん、出かけるなら鍵持って行ってねー。」
-
「おう。分かった…って泰子!?」
泰子が玄関まで出てくる。ひょ、ひょっとして……
「私だけじゃないよぉ〜。ね?インコちゃん?」
「み、実乃梨あ愛してる、竜児君おっきい、いく、いくいくイク…」
い、インコちゃんがそんな生々しい言葉を覚えちまうなんて…
…って俺たちのせいだよな、明らかに。
「ふふ、実乃梨ちゃん。やっちゃん、実乃梨ちゃんのことギザ応援してるからねぇ〜。
竜ちゃんのこと、よろしくねぇ〜。」
-
「は、はい!お母様!何卒、ご指導ご鞭撻の程、賜りたいと存じて御座いまして……!!」
-
「そ、早漏!早漏!そそろう!早漏!」
インコちゃん、何て下品な言葉を…!ってゆーか、んなこと言われてねぇぞ!?
- ***
帰り道。薄暗い道を並んで歩く。
…家まで送るって言って正解だったな。最近、色々と物騒だしな。
「――そういえば、竜児君。お昼に言ってたアレって本当なのかね?」
「アレ、とは?」
「え、あー、やー。ほれ、アレだよ、分からんもんかね。」
指をモジモジさせながら、何かを伝えようとしてくる。けど、全くよく分からない。
そもそも、さっきまであんなにアクティブだったのに、何をそんなに恥ずかしがってんだ?
-
「いや、さっきはさっき。今は今だと思わんかね?んで、アレってのは、そ、その、
私の写真でお、おオn…じゃなくて、じ、自己処理してくれるってヤツ。」
「……おう。本当だ。」
今さら言い訳する必要もないと思って、せめて男らしく堂々と認めることにした。
-
「そ、そっか。なら、竜児君の自家発電のために今度、私のそーゆー写真を進呈しよう。
…最近は写メっていう便利なツールもあるわけだしね。」
「お、おう。…ど、どう答えりゃいいか分からねぇけど、ありがとな。」
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「もちろん、他の本は捨ててね?」
「お、おう……」
実乃梨の凄まじいニッコリの前に、「ひとつなぎの大秘宝」との決別を悟ってしまった。
さらば、俺の日々を支えた英雄たちよ……悲しくない。決して悲しくなんかないぞ。
「うん。それじゃ、ご褒美。」
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一方的に唇を押し付けて、
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「そんじゃ、ここまでで大丈夫!じゃーまたね!」
薄暗い明かりでもはっきり分かる真っ赤な顔で満面の笑みを振りまいた後、
走り去っていった。
…頬が緩みっぱなしなのが分かる。両手で頬を叩いて、気合入魂。
よし、帰るか。
それにしても、さっきから後ろを尾けられているような――っ!?
…
――ッ!!
おわれ
おわれ
オワリ
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