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我らが同志エピローグ
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- 「ね、ねぇ、高須くん。こ、この前、亜美ちゃんが高須くんの家に脱ぎ忘れていった、パ、パンツ…、あ、あれって、 どうしちゃったのかなぁ…」
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エッチ寸前までいったものの、コンドームがないことで未遂に終わったあの夜(『我らが同志』前編参照)、迂闊にも 亜美は自分のショーツを竜児の家に脱ぎ忘れてきてしまっていた。
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何せ、エッチ寸前という興奮状態で、そのショーツは愛液でぐしょぐしょだったということもあり、その後の処置が
どうなったのか、亜美ならずとも気に掛かる。
「お、おう、あ、あれか…」
「そ、そう…、あれ…」
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竜児も亜美も赤面しながら周囲を見渡した。スドバの店内には、午後だというのに珍しく他の客が見あたらない。
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「あ、あれなら、その日のうちに、手早く洗っといた。いつでも返せる」
「そ、そうなんだ…」
それを聞いて亜美は安心したが、不満にも似た軽い失望感を禁じ得ない。赤面はしていたが竜児のコメントは極めて
事務的であり、例えるならば、母親が自分の娘の下着を洗ってやったという感じだ。
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仮にも若い男が、好きな女の、その女の愛液がしみ込んだ下着を直に扱って、何の劣情を催さなかったらしいことが、亜美としては何か許せない。
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「ねぇ、高須くぅん。亜美ちゃんのパンツは、どうやって洗ったのぉ? 亜美ちゃんのパンツだけ洗濯機に放り込んで洗ったりしないよねぇ?」
『MOTTAINAI』精神の権化ある竜児が、そんな水も電気も無駄になるようなことはしないと思うが、念のため訊いてみた。
「いや、手洗いだ。その方が、生地が薄い下着とかは無難だ。それに、あの汚れ方だと、すぐに手洗いしないとシミになっちまう。実際、川嶋があの日帰ってから、川嶋がショーツを脱ぎ捨てていることに気がついて、すぐに手洗いさ。
おかげで、綺麗になったよ。実際、シミにはならなかった」
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竜児は、ほっとしたような笑顔を浮かべている。その笑顔は、手早い処置で、シミにならなかったことを喜ぶ、主婦のそれだ。
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「そ、そう。ありがとう…」
亜美は、顔では笑っていたが、内心絶句した。竜児が、亜美の愛液で芳しい香りがするはずの下着を洗っていて、
全く興奮しなかったらしいことが本当にショックだった。
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- 「気にするな。洗濯は日常茶飯事だからな、どうってことないよ」
「そ、そう、どうってことないんだ…」
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--お仕置きよ、お仕置きが必要だわ。だが、念のため…。
亜美は、次のコメントに竜児がどう反応するか、ちょっと試してみることにした。
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「ねぇ~ん、亜美ちゃん、高須くんのパンツ借りたままなんだけどぉ~、ご免ねぇ、未だ洗ってないのぉ。亜美ちゃんの
あそこの部分がシミになっちゃったみたいだけどぉ、いいかしらぁ~?」
竜児の耳元でそう囁くと、ちょっと屈んで、両脇を締めた。二の腕で圧迫された乳房が、その存在感を主張するように
盛り上がる。
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だが…、
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「何だ、しょうがねぇなぁ。そのまんまでいいから、都合のいいときに返してくれ。普通の洗い方じゃダメだけど、
酸素系の漂白剤で晒せばオッケイだろう。まぁ、任せとけって」
落ち着き払ったその態度には、照れも羞恥も何もなく、ただただ、これから下着を洗うという作業にのみ興味があると
いうことが明白だった。それも、漂白剤で…。
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亜美の怒りは爆発する。
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「高須くん、そんなに働いてばかりじゃ、肩がこらない? ちょっとマッサージしてあげよっか」
「お、おう…、でも気遣いはいらねぇよ」
亜美はそれには応えず、竜児の背後に回り、二度三度、竜児の肩を揉む振りをした。
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「ほんとに、いいってのに…」
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竜児がマッサージだと思い込んで脱力したその瞬間、亜美は両の拳を竜児のこめかみに力一杯ねじ込んだ。
「う、うわぁ!!! いてぇ、いてぇよ」
「あんたは、本当に女心の機微が分かってない! この朴念仁!」
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静かな憩いの場であったはずのスドバの店内に、阿鼻叫喚さながらの竜児の絶叫が響き渡った。
(終わり)
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