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いつもの場所
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- 大橋高校の自販機スペースは、昼休み以外、あまり人気がない。
その高校は進学校であり、校風が至って真面目な事、
校則で昼休み以外の使用が禁止されている事、 そして、学校の有名人「ヤンキー高須」こと、高須竜児の待ち受ける
竜の狩場として恐れられている為である。
そんな場所での、冬をまじかに迎えたある日の出来事
高須竜児は、いつものように自販機スペースに向かうと、これまた、いつもの先客がいる事を発見した。
「よう、川嶋、またここにいたのか」
「チース、高須くん。それはお互い様」
川嶋亜美は、自販機の間に隠れるようにして座っていた。
竜児が声を掛けると、上体を起こし、軽く手を上げる。
特に意識した様子もなく、軽く挨拶を交わす二人
もっとも、亜美の方は彼が来る事を疾うに知っていた。 彼女はここにいる時は、常に自販機の影で身を潜め、耳を澄まし、誰かこないか注意を払っていた。
だから、竜児が来るころには、彼と交わすべきであろう言葉と、心の準備を終えていた。
「高須くんは今日はどうしたのかな。そっか、実乃梨ちゃんの前で緊張し過ぎて逃げてきたんだね。
朝、会話しようとがんばってたものね。でもメーター振り切れちゃたんだ。あ〜あ、なさけな」
「そんなんじゃねえよ。寒いから、コーヒー飲みに来ただけだ」
竜児はコーヒーを買うと、自販機の反対側の壁に背を預け、亜美と向かい合う形で座った。
「にしても、相変わらず自販機の間に挟まっているのなお前は、寒くないのか」
「ここは亜美ちゃんの居場所。だいたい、私が朝から寒さに震えてるのは高須くんのせいなんだからね」
「お前、無茶苦茶言うな。天候が悪いのも、冬が来るのも俺が原因かよ」 「天候じゃなくて、高須くんの顔みると寒くなるんだよね。心から」
「おまえな」 「そうそう、その顔。本当、悪人面だよね。亜美ちゃんこわーい」
そんな竜児の顔を楽しそうに覗き込む亜美。
竜児は、いつも通り、川嶋亜美がからかっているのだと思ったが それでも沸いてくる動揺を隠す為に、コーヒーを飲むという作業をただ続けた。
「いつまで、俺の顔観察してるんだ、そんな面白くもないだろう」 「えー、面白いよ〜」
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触れ合うには遠すぎるが、二人きりでいるには近すぎる距離、ここはそんな距離を許してくれる空間だった。
その距離間にうれしさと、少しのもどかしさを感じながら、彼女は飽きずにじっと眺め続けた。 ここなら、私も少しは無茶出来るかな と思いながら
しかし、そんな中でもつい不安要素を探してしまう。 それが彼女の弱さであり、その行動が自分の可能性を狭めてしまう事を自覚しつつ、
彼女は不安を見つけ、それをぶつけざるおえなかった。
「ねぇ、高須くん。ちょっと聞いていい」
明るい顔と口調を用意し、亜美は問いかけた。
「なんだ、またからかいの種でも思いついたか」
「んー、別に大したことじゃないんだけど、なんとなく気になってる事があるんだよね」
「俺が答えれることならな、あんまり無茶な質問なすんなよ」
「高須くんにしか答えられないこと。高須くんはどうして、....ここに来るの?」
「見ればわかるだろ、コーヒー飲みに来たんだが」
「う〜ん、そこなんだよね。 高須くんってさ、いつも水筒持ち歩くような、節約おばさん体質じゃない。
なんで、わざわざ自販機なんか使うのかなって」
「なんだここはお前の場所だから、俺に来るなって事か」
「違う!!そんなんじゃない!」
「?、急にどうした...」
竜児は、亜美の感じが変わった事に気づき、言葉を選び直した。
ここで、演技でも、からかいでもない素の川嶋か、俺が空気よめてないのか
本当、お前の幼馴染は難しいな、北村。
まあ,こういう顔は解かり易くていいんだが。
か弱さと、必死さが漏れ出す瞳に、そっと竜児は話しかけた。
「ここに来ると落ち着くんだよ。
昔から、教室にいると、時々、気を使われてる感じがしてさ。
俺のせいで空気を悪くするとか、そういうのが嫌なんだよ。でなんとく、ここに来だしたんだ」
「でも、それって昔の事、高須くんがヤンキーだって、クラスのみんなに勘違いされてた時の事でしょ。
2−Cのみんなはそんな事思ってないじゃん。祐作だって、能登君だって、春田君だっているし、
それに、大河や.....実乃梨ちゃんだっているんだよ。」
「確かに、2−Cのみんなは良くしてくれてるよ。いい意味で気を使ってもらってるし、感謝している。
だけど、習慣なのかな、ここに来ると、誰にも気を使われないって事で落ち着く事は変わらないんだ。」
「でも、ここは私もよくいるよ。高須くん一人きりになれないよ。
高須くんの場所だって事はみんなから聞いてたんだ。高須くんはいつも難しい顔してるから、ここに来ちゃいけないってそれを私が、高須くんの場所に無理やり割り込もうとしたんだ。邪魔だよね」
「別にここは俺の持ち物じゃねえよ、俺のせいで、ここに来なくなるとかされる方がよほど嫌だ。
それにな、お前と話をしたくて来ることだってあるんだよ」
「それって私に会いたくてって事」
「そういう時もあったて事だ。だいたいお前は俺にははっきり物言うから気にならないっていうか、とにかく、お前を邪魔だと思って事は1度もないぞ」
亜美の瞳から、か弱さがなくなり、いたずらぽい輝きを取り戻したのを見て、竜児はほっとしたが、
それと同時に、自分が発した言葉への気恥ずかしさを押されきれなくなり、目をそらす。
亜美の瞳が、比例して輝きを増した。
「そっか、私を探しにか。高須君ってストーカーの才能あるよね。」 「そんな狂信的じゃねえって、だいたいストーカーの才能って何だよ」
「だって顔つきに出てるもん」 「また顔の話かよ、いい加減に俺でも傷つくぞ」
亜美の瞳は一転して、いたずらぽさが消え、真摯を映し出していたが、目をそらしている竜児はそれに気づくことはない。
「いいよ」
「なにがだ」
「高須くんが私の居場所にいても」
「ここが俺の持ち物じゃねえとは言ったが、いつの間にかお前の場所かよ」
「そうだね、いつの間にか私の居場所になっちゃった。そして私が、いてもいいって許可を出すのも特別な事なんだよ」
「あぁ、ありがとうな。別にお前の許可が無くても俺は来るけどな」
「そう、もう顔パスでOK」
亜美の言葉と、自分のテレに耐えられなくなった竜児は一気にコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「コーヒー飲み終わったから、俺はもう行くぞ。お前も授業には遅れるなよ」
「はいよ、ほなさいなら」
一人残った亜美は、竜児が廊下を歩いて行く姿を見つめ、そして、そっと、缶紅茶を口につけた。
「やっぱり、あったかいな」
END
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