竹宮ゆゆこ総合スレ SS補間庫
   

 

伝えたい言葉(1)

絡まった糸を解くのって結構、厄介。
上手く解ける場合もあれば、余計に絡まる事もある。
ここが解けたと思ったら、別の場所で玉結び、それを直したら次は
そんな感じで結局は……グッチャグチャ。
嫌になる。何で私はこんな事してるんだろう?
別に私が必死こいて動き回る必要なんて無いよね。
でもしなきゃ駄目なの。
ここまでややこしくなったのは私のせい。
そして、糸を解いた先に見えるだろう答を見たいから。
その一つが私だったらな……って、はは亜美ちゃんバカみてぇ。
そんなの、ある訳無いじゃん。端から分かってるし
解こうとしている糸の先は、大河と実乃梨ちゃんしか居ないんだもの。
……
高須君の探る『糸』の中に『川嶋亜美』は居ない。
だけど『もしかしたら』って想いを馳せてしまう。
入り込む余地なんて無いと解ってても
ねぇ、高須君私も見てよ。
お願い。からかってるんじゃ無いんだよ?
好き………キミに恋してるの。
………
諦めきれないよ。
.
[
伝えたい言葉]
.
薄暗い体育倉庫の中、私と高須君は『居た』
クリスマスパーティーの準備の喧騒も何処か遠くに聞こえる。


『大怪我する前に目を覚ましたら。全部チャラにしなよ。
それで一から始めたらいいじゃん。
あたしのことも、一から入れてよ』
私はマットの上に寝転がり、彼に背を向けて、そう言った
打算があって言った訳じゃない。
ただ私の願望の発露として、唇が勝手に言葉を紡いだだけ。
「な、あ。川嶋今、何て?」
高須君が私に聞き返す。
戸惑いを隠せて無い声で
やっちまったなぁあいたたたっ
『ごっめ〜ん☆冗談!冗談!本気にしたぁ?高須君の反応マジでウケる。亜美ちゃん腹痛てぇ!』
とか笑って誤魔化そう。
これ以上、糸がこんがらがったら嫌だもん。
朴念仁とアホとドジが右往左往してるの見てたらムカつくし
早くスッキリして楽になれば良いのに、イライラするんだよね、アンタら見てると。
うんうん。そうだ。流石、亜美ちゃん解ってるぅ。
『いつも通り』に言えば良いのだ。
からかっただけ、って
……私も、選択肢の一つに……入れてよ
でもね考えとは真逆の事を、私は言ってしまう。
胎児の様に丸く身体を縮こませて


「選択肢って、あ。……いや、川嶋。そのゴメンな。それは
背後から聞こえる申し訳なさそうな高須君の声は、私の心を抉る。「俺好きな人が居るから、さ
苦しい。胸が張り裂けそうな残酷な一言。
こう言われる事なんて解ってた。
でも、本人の口から言われると辛くて悲しい。
親指の爪をグッと噛んで、零れてしまいそうな涙を堪える。
何で駄目なの?大河や実乃梨ちゃんは良くて、私は私は駄目な訳?」
適当にお茶を濁せば良いのに
もう傷付きたくなんか無いのに、私は更に深く聞いてしまう。
「んその内、俺なんかより、もっと良いヤツが見つかるぜ?川嶋に釣り合うヤツがさ」
と、テンプレートな言葉で、やんわりと断られる。
それ、『優しさ』のつもりで言ってるでしょ?
違うよ『否定』だよ。
『俺はお前が好みじゃない』
そう言っているのと同じだ。
「っ。何だよ、それ。っん。高須君って酷いよね」
私は絞る様に紡ぐ。
「私じゃ嫌?そうなら、そうって言ってよ?辛いよ半端な言葉で生殺しにしないでよ!」
もう抑える事なんか出来なかった。


「お、落着け!川嶋、どうしたんだ!?訳が分からねぇよ」
肩に置かれた手を振りほどいて、私は起き上がった。
っ!私だって!私だって訳が分からないわよ!でもでもっ!」
彼を睨み付けながら、その先を言おうとして、私は正気に戻る。
落着け、川嶋亜美。
その先は取り返しがつかないよ?
一割にも満たない確率に掛けるなんて無謀だ。
言ったら、ただでさえややこしい関係が更に複雑になる。
私は深呼吸し、一呼吸置いて彼に言った。
「ゴメン。何でも無い。あはは今のは忘れて?」
うんこれで良いんだよね?
どうせ、実らないんだ
無かった事にしよう。
これ以上は傷付きたく無い知りたく無いし、見たくない。
「お、うっ。大丈夫か?」
そう高須君が言ったの。
何でだろう?大丈夫に決まってるじゃん。亜美ちゃんは……強いから大丈夫。
でも本当は………
わっけわかんね。高須君が何言ってんのか分かんねぇし」
私は強がりを言う。煙に巻く言葉を
「でも。川嶋、泣いてるし」
は?泣いてる?私が?
何言ってんだ、このチンピラ顔。
この位で泣く訳ねぇ。
……
私は強いんだから。



私は頬に指を滑らせる。
あれ?
おかしいなぁ何だろ?これ
ああ、そっか。
私、涙が出てるんだ。きっとさっき堪えていた涙だよね?
「あ、あれ?な、何でだろ、な私、泣いて。え
高須君の言っていた事泣いてるって本当だったんだ。
そう理解した瞬間、私は溢れ出る熱い涙を止められなくなる。
「ぐすっ!ち、違うっ!悲しくな、んかっない!わ、たしはっっふ!泣いてなんかっ!っ
違う!違う!辛くなんか無い!
こんな事より辛い事は、もっとあった!
母親の七光だって陰口を叩かれた事

名前を売る為だからって、枕営業をさせられそうになった事だってある。
それらに比べたら、こんな事大した事無い!
「ほ、ほら!これ使えよ!」
私に差し延べられたのはハンカチ
これが大河や実乃梨ちゃんだったら、ハンカチじゃなくて、優しく抱き締めてあげたりするのかな?
きっとそう。これが私と高須君との距離
彼女達との数ヶ月の差縮まる事の無い絶対の差。
「川嶋。俺が悪かった。何か酷い事言っちまったみたいだ。悪かったゴメンな」


そう高須君が言って、私の頭を撫でる。
大河を見守る時の目でさ
卑怯だよ優しくしないでよ。
それが『生殺し』なんだから。
期待させる様な優しさが私を受け入れてくれる優しさが
どうせなら拒絶してよ。
泣いてる私なんか放っておいてさ。皆で準備なり何なりすれば良いのに
高須君なんか高須君
「うっうぅ!ううわぁあああんっっ!」
私は彼の身体に抱き付いて泣きじゃくる。
「おう
解ってる彼が私を突き放さないのは『優しい』からなんだと。
フラれたも同然の男に泣き付いて、傍目だと無様だと思う。
でも今だけは良いよね高須君に甘えたい。ただ胸を貸してくれているだけで良い。
落ち着いたら『いつもの川嶋亜美』に戻るから。
だけど今は『女の子の川嶋亜美』で居させてね、高須君
.
こんなに思いっきり泣いたのは、いつ以来だろう。頭がボーッとする。
「よし泣きやんだな。ほらハンカチ」
再び差し出されたハンカチを受け取って、目元の涙を拭く。
「んありがとう
そう言った後は言葉が続かなくなる
私達は沈黙し、ただただ時間だけが過ぎていく。


落ち着いてくると、私はある事に気付く。
もしかしていや、私は事態を余計に悪化させてしまった、と。
高須君は気付いてしまったと思う。
私が、彼に抱いている想いを
あんな言い方したら、どんなに鈍感なヤツだって気付くだろう。
あの時、自制が効いていたなら、無い事にしてしまえたら
もう無理頭の中がグチャグチャだよ最悪。
このまま接点を無くして、疎遠になったら忘れてくれるかな、ううん。
やっぱり嫌だ
他人に嘘は付けても、自分に嘘は、付けないもん。
高須君の事が大好きだから諦めれないよ。
もう我慢はしない
回りくどく
『私の事も見て』
じゃなくてストレートに
『私に目を向けさせて』
みせる。
大河や実乃梨ちゃんと同じスタートじゃなくても、同じ『土俵』には立ってやる。
その上で高須君に
だから『お節介』は止める。
「ねぇ、高須君。ちょっとお話しようか?」
「おう。何だ?」
今からの私の行動が、今後の関係にどう影響しようが構わないや。
大河も実乃梨ちゃんも、そして高須君もハッキリしないからいけないんだよ?

高須君に『忘れる事の出来ない』川嶋亜美を刻んであげる。

続く