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あみもの
- 『トントントン』
軽快に、しかし、どこか悪戯っぽく、階段を駆け上がる軽い音。
木造のボロアパートのドアが軋みを上げつつ、しかし、静かに開く。
「ごめ〜ん、高須君、忘れ物しちゃったぁ〜。 亜美ちゃんってば天然だからぁ〜。」
-
玄関から唐突に踊りこんだ影は、天使の顔をした悪魔だった。
― あみもの ―
「うおっ、川嶋!」
なによ、そのオバケでも見るような反応は…。
ん? なんか今隠した…
「亜美ちゃん、勉強道具忘れちゃったからぁ〜。 取りに来たの。 迷惑だったぁ?」
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「お、おぅ。 いや、迷惑ってことはないが…。 俺の部屋に置いてあるから、今取って来る。
だから、そ、その、そこにいてくれ、ちょっと散らかってるからな。」
そういって高須くんは、そそくさと隣の部屋に…
散らかってるって… なんにもねーじゃん。
怪しい。
「おぅ、川嶋待たせたな、ってお前なにくつろいでんだよ!」
「え〜、だってぇ、亜美ちゃん、台所に突っ立ってるの、超だりぃし〜。」
-
「お前なぁ…」
スカイブルーの編み物らしき糸の塊。 あれがさっき隠そうとした物…
さては、またチビトラに…
「亜美ちゃん、ここに来るまでに疲れちゃった〜。」
「疲れるような距離かよ。」
「だって〜 まだ5月なのに、なんか、この暑さおかしくね?」
「確かにな、地球温暖化ってやつだろ。 先日、扇風機を出したから、それで我慢してくれ。」
-
「亜美ちゃん、馬鹿だからぁ、そういう難しいのわかんなーい。」
「…川嶋。 お前、頭は悪かねーんだから、真面目に勉強すればいい大学いけるぞ。 大体な、
俺の家でみんなで勉強しようって言ったのはお前なんだぞ。 そのくせ全然やる気ねーじゃねーか。」
「な〜に〜? お説教? うぜっ、超ウゼェ。」
「あのな…。」
「高須くーん。 亜美ちゃん喉かわいたぁ〜。 それにちょっと小腹すいちゃった。 なんか作って〜。」
時間稼ぎしなくっちゃね。 あの物体の正体確かめるには。
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「…はいはい。 しょうがねぇな。 お姫様はよ。 食ったら帰れよー。」
-
「は〜〜〜い。」
どれどれ。 あ、やっぱり… サマーセーターじゃん。 ほぼ完成ってところかな。
あ、この色好きかも。 可愛い〜。
でも、この大きさ、やっぱりタイガーの…
むくむくと悪戯心と、ちょっぴりの嫉妬心が湧き上がる。 うん、ちょっぴりだよ、ちょっぴり。 嫉妬心はね。
着ちゃえ!
上着をすばやく脱いで、サマーセーターを着てみる。
うっは、やっぱちっちぇー。 胸ぱっつんぱっつん、臍モロだし。
んふふふ。 これで高須君の事からかっちゃえ!
- *
「できたぞ、ビスケットとチーズ、それにスライスサーモん? うおっ、川嶋、お前!」
-
「高須くーん、どうよ? このセクシーなバストライン」
「うおぉぉぉ! か、返せ!」
「え〜。 それって、脱げ、って事〜。 やーん、高須君のえっちー。」
-
「えっちも何も、勝手に人ん家のもん着てんじゃねー! しかも、未完成品だぞ、それ!」
わざと胸を張って見せ付ける。 ニットの網目が開いて、下着の色も形も丸見え。
「おぅ! 胸を突き出すな!」
のびあがって、臍を見せ付ける。
「おおぅ! のけぞるなー!」
真っ赤になって照れちゃって、可愛い〜。 コイツはもうタイガーのものになっちゃったんだし、この位の悪戯、許されるよね?
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「おのれ、川嶋〜 舐めるなー!」
「ん、ぁあん。」
「うお! す、すまん!」
「高須くん、どこ触ってるのぉ? 亜美ちゃん、ちょっと感じちゃった…」
「ほら、ブラの先っちょが網目にひっかかっちゃう…。 これ以上亜美ちゃんのカラダ反応しちゃったら…
ほどけちゃうかもよ? あ、み、も、の。」
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「か、かっ、かっ、くぁわ嶋、お、お前、な、なんつう事を!」
「だってぇ、さっきみたいに触られたら、女の子なら誰だって感じちゃう。」
-
「な、何いってん…」
「ましてや、それが… 好きな人だったら、我慢なんてできないよ……」
-
「…だ、よ…。」
「………」
「………」
「………なんてな。」
「お、お前なぁ………。」
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「あはははははははは。 なーにマジになっちゃって〜 高須君ってやっぱ、しょーもなー。」
「へい。へい。 どーせ俺はしょーもない奴ですよ…って、それ、返せよ!」
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「ん〜 仕方ないなぁ、返してやるかっ。」
「なんで、恩を売るような言い方なんだよ…。」
「あははははっ……あっ」
「うおっ!」
悲劇は突然やってくる。
――― 網糸がさっきつけた扇風機に絡まった ―――
「きゃぁぁぁぁ、 た、高須くん!」
「うおぉぉぉぉ!」
たちまちのうちにセーターはほどけて、見るも無残な姿に変わる。 同時にあたしはソデだけ残して上半身ブラ一丁に…
「うあああああああああああ! なんてこった! 糸にモーターの芯の油がついて… 台無しだぁぁぁぁ!」
あたしの半裸はシカトかよ…
でも、悪いことしちゃったな… 高須君にも、タイガーにも…。
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「ゴメンね… 高須君…。」
「くっ。 なんてこった、もうこの糸は使えねぇ… なんて、なんて、MOTTAINAI…。」
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お詫びに、ちょっとあたしの胸の感触を………。
おわり。
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