





|
勝手にチワドラP
-
『結局…高須君は、一度だって、あたしの事、実乃梨ちゃんや、
タイガーみたいには見てくれなかったじゃないッ!!
あたしは…あたしは…あたしだって、好きなんだよ…好きって言いたいんだ。
高須君が好きなんだって…言いたいんだよぉ……』
櫛枝に振られ、いや、振られる事さえ出来ず、自分を見失った俺は、事情を察していた川嶋に当たり散らした。
怒りとエゴをぶちまけ、川嶋を傷つけてしまった。
楔の様に胸に突き刺さるのは、その時の川嶋の言葉。
俺の事が好きだという、川嶋は今までみせた事のない
無防備で今にも壊れそうな表情をしていた。
川嶋の告白が何度も何度もリフレインし、その夜は川嶋の事ばかり考えていた。
-
そして、夢を見た。川嶋の夢を。
大波で街も家も何もかも流されて無くなってしまって…
波に攫われて底へと沈む俺を川嶋が引っ張り上げてくれて…
夢の中の俺は、川嶋の事が好きで、川嶋も俺の事が好きだった。
『2人一緒に生きていこう。』手を取り合って…そう誓いあった。
朝になって、すぐに罪悪感に苛まされた。
川嶋が俺を好いている事を知った途端に、俺は、櫛枝から川嶋に鞍替えみたいな
そういう真似をするつもりなのか、と。
夢の中の俺は、ただ純粋に川嶋が好きだった。様に思う。
なら、現実の俺は?純粋に川嶋が好きだ、なんていう風には割り切れなかった。
そう思うには、色々、ありすぎた。
けれど、答えは出さなければいけない。
俺は、櫛枝に自分の告白を無かった事にされ、傷ついた。
川嶋に同じ思いをさせる訳にはいかない。川嶋のため…じゃない。俺は、川嶋を傷つけるのが怖かった。
また、川嶋のため…と、川嶋の好意にあぐらをかく様な真似をするのが、もっと怖かったのだ。
ただ、早く答えを出そうにも答えが見つからなかった。
この場合の答えとは、川嶋の告白に対する返事の事を意味する。
すなわち、イエスorノー。川嶋のクローズドクエスチョンに対する返事なのだが…
俺は答えを決めかねていた。あまり、猶予は無い。
学生は学校へ行かなければならない。
- ほとんど、一番乗りで校門をくぐった俺は、
朝の誰にも踏み荒らされていない、気持ちの良い校庭を通り過ぎ、校舎へと入った。
いつもより早く着いたのは、早足でまっすぐに登校したからだ。 櫛枝と顔を合わせたくなかった。だから、大河も起こさなかった。
それと、一人で考える時間が少しでも欲しかったのだ。
そして、教室に着いた俺の足を、寝不足と喉の渇きとが自販機へ運ばせた。
「げッ…」
-
「おう…」
こんな朝早くから、自販機に挟まれたソイツは
-
「マジ、ありえないんですけどぉ。
朝から、今、一番会いたくねぇ奴と…さ・い・あ・く!!
てか、なにその顔!?隈なんか作って…ほとんど、犯罪じゃん!?
亜美ちゃんこわ〜い。」
-
と、 開口一番、毒づいた。
………そんな表情で毒づかれたって、腹も立たねぇよ。
-
「悪かったな…夢見が悪かったんだ。あと、お前も隈出来てるぞ。
いつもより、化粧が濃いみてぇだけど、全然隠れてねぇ。」
-
「はぁ!?夢?
てか亜美ちゃん…隈なんか出来てねぇし。
高須君、目つきだけじゃなくて視力まで悪いんじゃん?」
「川嶋の夢を見た。あと、俺は両眼とも裸眼で1・5以上ある。」
-
「……あたしの夢?」
-
「おう。」
-
「ふぅん。もしかしてぇ〜夢の中で亜美ちゃんに欲情して、
あ〜んな事とか…こ〜んな事とか…したの?」
-
「おう。」
「おう。て…あ〜ヤダヤダ。
高須君も所詮、単純な男って訳だ?
告白されて、それで…って訳?」
最後の台詞から、川嶋の口調が変わっていくのを、俺は気付いた。
「そうじゃねぇ。…とは、言わない。そうかも知れねぇ。
実際、昨日はお前の事ばかり考えてたんだから。
軽薄だと思うなら、そう思えば良い。
俺だって、我が事ながら、そう思うんだから、なおさらだろ?
- はっきり言えば、昨日から俺は川嶋の事が気になっている。」
-
「なによそれ?同情?ふざけないでよ。
……あたしは、そういうのが嫌だから、無かった事にしようと思ってるのに…
やめてよ…あたしに惨めな思いはさせないで…」
「同情?お前こそふざけんなよッ!!
無かった事に…されてたまるかよッ。
お前に同情なんかしねぇよ。
お前みたいな、勝手な奴知らねえ。
わがままで自己中で腹黒で、いつも人を見下した様な態度で、人を取って食った様な事言って…
最後まで、そうするつもりなのかよ?
俺の隣にいてくれよッ同じ地平の同じ道の隣を歩いてくれよッ。
川嶋ぁ〜〜ッ!!お前に居て欲しいだッ。」
悩んでいた答えは、あっさりと出てしまっていた。
-
「………」
うん。と、頷いた川嶋は、そのまま泣き出してしまった。
猫の様に丸めた背中をさすっていた俺は、下の階からざわざわとした人の気配を感じた。
マズイ。この階に上がってくる…
咄嗟に、泣きじゃくる川嶋を抱えて、俺は、校舎の外へと飛び出した。
-
−−−そして、今。
-
「そろそろ、降ろしてくれない?恥ずかしいし…もう立てるから。」
-
「おう。」
-
「高須君にお姫様だっこされるなんて…
シュチュ的には最高なんだけど…ね。
また、今度してね?」
-
復活した川嶋は、いつも通り、俺をからかいだした。
いや、これは川嶋の素直な願望なのかもしれない。
-
「おう。」
「フフッ。嬉しい。
…けど、良いの?あたしで、ホントに。」
「お前以外にそんな事したら…即、通報モンだろ?」
「もう…そっちじゃないわよ。
隣に居るのは、あたしで良いの?
実乃梨ちゃんやタイガーじゃなくて?
ホントにあたしでよか−−−ッ……ンン……」
………
-
「良いんだよ。川嶋が。
正直言うと、決めかねてたよ。
けど、勢いで、言っちまった。
あれが、俺の本心って事なんだと思う。
夢に見る位だからな。好きだよ、亜美が。」
「…ズルいよ。こんなの。
やりなおし。もっかい、やりなおし。
ほら、目瞑って……」
二度触れた亜美の唇は、二度とも火傷しそうな位に熱かった。
「ね、りゅ〜じ?これからどうするの?」
「どうするって…あ、学校…ヤバイ。もう、間に合わねぇ。」
-
「え〜いいじゃん。今日は、学校なんて。二人で居ようよ。
デートしようよ、ね?」
「おう。まあ、今日は仕方ない…よな?
それで、ドコに行きたいんだ?」
-
「ん…とねぇ〜。それじゃあ……」
- 亜美に連れてこられた店は、高校生には、少し敷居の高い、洒落た喫茶店だった。
朝から優雅にコーヒーを嗜む高校生は、
見事に周りから浮いていた。
紅茶を嗜む女子高生は、店の雰囲気に馴染んでいるようだが…
この時間帯に制服姿という違和感は、どうにも拭い難く…
「どうしたの?ソワソワしちゃって。」
-
「あのさ…俺達、何か浮いてないか?」
-
「別に気にしなくて良いんじゃない?
あたしは、竜児以外は、目に入らないし。
張りぼてとかカボチャとか思えば良いのよ。外野なんて。」
-
そう言うと、亜美は、紅茶を一気に飲み干した。
「…そんなもんか?」
「そんなものよ。
あ〜。さては、竜児…デートとか初めてなんでしょう?
うんうん。そっかぁ〜初めてなんだぁ〜」
-
「…初めてだよ。…悪いかよ?。」
-
「ん〜ん。初めての相手が、この超絶可愛い亜美ちゃんじゃあ、
緊張するなっていう方が無理だよね〜」
「うるせぇ。」
-
亜美の奴は、随分、慣れてるみたいだけど…
こういう店でデートとかした事あるのか?
誰と?どんな奴と?
こいつの事だから、そりゃあモテるんだろうけど……
形容し難い感情がふつふつとたぎるのを胸の奥で感じていると…
-
「あ。」
「おう。どうした?」
-
「え、いや…」
亜美は空のカップを凝視し、何やら、困り顔だった。
見れば、ケーキが半分以上残っている。
ケーキと紅茶をバランス良くとらないから、そういう事になるんだ。
ほら、俺のを見ろ。こうやって、ちゃんとバランス良く食べれば…ん?待てよ?
-
「もしかして、亜美も、デート初めてなんじゃないのか?」
「……ふん。ばか。忙しいの、あたしは。」
ぷい。と、そっぽを向く。
ああ、こいつは拗ねるとこういう顔をするのか。可愛いな。
こういう店を選んだのも亜美なりの背伸びだったんだな…
「なあ?それ食ったら、一旦、家に戻ろう。
どこ行くにしても、制服のままじゃあな。着替えた方が良い。」
-
「え?でも…
あたし帰れない。この時間だと、きっと、おじさまもおばさまも家に居るから。
服は、どこかで買わない?」
-
- 買い物がしたいんなら、付き合うが…俺は買わないしなぁ…
この場合、何より、MOTTAINAI気がする。
「家に来いよ。泰子の服で良かったら、貸すからさ。」
-
「竜児の家?うん…いく。
何かさぁ、こういうの駆け落ちみたいだよね。」
-
「駆け落ち?俺は家に帰るのにか?」
「あたしにとっては、だよ。」
「…解んねぇ。」
「いいよ。解らなくて。」
「…じゃあ、早く残り食っちまえ。
ほら、俺のコーヒーやるから。」
-
「え〜亜美ちゃん、苦いのヤダ。」
「わがまま言うんじゃありません。」
-
「じゃあ…食べさせてよ。アーン。」
-
「…はいはい。解りましたよ。ほら、アーン。」
「アーン。」
***
途中で、「食べたばっかじゃ動けない。おんぶ」だとか「手繋いでくれなきゃヤダ」だとか、
お姫様全開な亜美の要望を、逐一、聞き入れていたせいで、随分、時間が掛かったが、とりあえず、家に着いた。
-
「少し位、叱ってくれたって良いのよ?」
-
なんて言うくらいなら、自重しろ、ったく。
ただ、今まで、亜美が甘えてくる事なんて無かったから、
俺としても、ついつい、全部、聞き入れてしまったんだ。
大人だとばかり思っていたけど、そんな顔もするんだな…と、ついつい。
-
「…あのさ…これ…」
-
「おう。着替え終わったか?」
-
「うん…でもさ…」
-
「…なんだよ?サイズ合わないか?」
-
「サイズじゃなくて…もっと違う部分が亜美ちゃんには合わないかなぁ〜って…
亜美ちゃん、一応、清純派だからさ…
ちょっと、アダルト過ぎない?特に胸元が…」
-
「そんな事ねぇよ。………」
-
泰子の服は基本的にジャージとそれ系の服しかない。
普段着と余所行き様だ。
このモデル様がジャージなんか着る訳はないので、選択肢は限られてくる。
「…じゃあ、何で、こっち見ねえんだよ!?何で、頬、赤らめてんだよ!?
あ、ちょ…そっぽ向いてんじゃねぇよ。
こっち見ろボケェッ!!」
泰子が着てても、何も感じない服だったが…亜美が着ると…
厚めの化粧も伏線だったのか、ちくしょう。
「…さっき甘えてたお前はどこ行ったんだよ?多重人格かよ!?」
「だから何よ?そんな事知ってんでしょッ!?」
-
「知ってるよッ。だから、好きなんだよッ。」
「ッ……。サングラス貸して。
前に竜児にあげたサングラス、貸して。
あれ、貸してくれたら、この服でも良い。
流石に素顔じゃ外歩けない。」
「おう。」
- 「ちゃんと…残してあるんだ……」
「当たり前だろ?引き出しに入れてある。」
-
「そっか。」
「でも、お前が、露出度の高い服を嫌がるなんて意外だよな。
それ、ビキニなんかよりは布地多いぞ?」
-
「……あのね。もう一度、言っておくけど、亜美ちゃんは露出狂じゃねぇから。
幼なじみだからって祐作と同列視するのやめてくれない!?」
「そうなのか?」
-
「そ・う・な・の。」
心理学というものは、どうにも画一的で、あまり好きでは無いのだが、
俺は、今のところ、亜美に3つの側面を見いだしている。
先程言った様な、多重人格ではなく、例えるなら、阿修羅像のイメージに近いかと思う。
-
1、大人ぶる
大衆向けの亜美、所謂、外面という奴だが、
自分が主導権を握りたい時に、俺に向けられる気がする。
2、毒づく
俺にとっては、一番、亜美らしさを感じるもので、見ていて安心する。素の亜美、なのか?
3、甘える
ついさっき発見した。
今までは、プライドが邪魔して出て来なかったんじゃないだろうか?
周囲への遠慮もあったんだろうな…悪い事したよな…
まあ、要するに全部足して亜美な訳だから、深く考える必要は無い気もするが、
普通の女の子と付き合うより三倍疲れる気がする。
三倍魅力的だ。とも言えるが。
毒舌家の癖にお人好し。露出癖があるのかと思えば、恥ずかしがるし、一体、何なんだろう。
見ていて飽きないな、コイツは本当に。
-
「なあ、亜美?」
「ん?なぁに?」
-
「どっか行きたいところあるか?」
「別に…無いよ。背伸びしたってバレるし…
竜児が一緒なら、どこだって…いいよ」
「だったら…ここにしないか?」
そういって、俺は亜美に一対のチケットを差し出した。
『らぐ〜じゃ・プラネタリウム』
クイックセーブ。
|
|