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月と太陽2
- 「お願い!ね?」
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女の子のお願いを、
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大好きな彼女のお願いを、
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片目上目遣いのかわいい実乃梨のお願いを、
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断れる竜児ではなかった。
「デート、デート、デート〜〜〜嬉しいな、デトゥ〜〜」
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最後のタロウのヵ所にデートという歌詞は合わなかったらしい。
- 何だよデトゥ〜って…
そう思いながらもニヤける竜児。
もう何か、見た目はまんま893。
あれは特撮物であり、極道物ではない…
ブランチも終え、今日のデートプランを決める。
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「じゃあ、映画でも見に行くか?何か見たいのあればだけど。」
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「おぉ、この前CMでやってたヤツが見たかったのだよ!
超〜怖そうなヤツ!」
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即答だった。そうだ、怖いものスキーなのだった、コイツは…
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しかし、
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『史上空前の超弩級SF時代劇メルヘンアクションロマンチックハートフルアドベンチャーミステリーホラーサスペンスラブコメ』って…
怖いかどうか以前に大丈夫なのだろうか?
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「良いけどよ、幽霊はもう見えたって言ってたろ?
他に見てぇのは無ぇのかよ?」
「ヤだなぁ、アレは恋愛とかの例えだよ、た・と・え!
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本物はまだ見てないもんよ、竜児くんだってそういうの見るって言ってたっぽ?」
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見ることは見るが、怖いのはあまり得意ではない。
彼女の前で、ビビるのは避けたいのだ。
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「…アレじゃ嫌かい?」
「いや、俺も気になってたんだ、アレ。」
不安…だが見たくない訳じゃない。
なにより、実乃梨の太陽の笑顔を見られるのなら、つまらないプライドなど、捨ててしまった方がマシなのだ。
-
というわけで、今日は映画を見て、買い物をして、最後には二人であま〜い………
バケツプリンを作る事になった。
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同棲なのにデートに入るのか?これ…
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実乃梨が頼み事をすると思ったら…
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『バケツでプリン、それは女の欲望番外地!
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竜児くんと一緒なら、きっと!夢は!世界は!この手に!』
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劇団櫛枝絶賛公演中である。
「よし、そうと決まればオジサンはチャチャッと準備してくるぜ、チャオ!」
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実乃梨は体育座りの姿勢で横になると、泰子の部屋にコロコローっと転がりながら消えていった…
多少呆れながら、竜児も自室へと着替えにいく。
- 誰もいなくなった居間…
いや一人、正確には一匹いる。
インコちゃん。
『イ、イ、イィ〜、インコちゃんも、
-
お、おで、お出掛けしたいぃ。』
……動物は人のいないところで実は…
なんて想像は、ペットを飼ったことのある人なら夢みた事があるのではないか。
インコちゃんの場合、夢か現実かは分からないが…
パパッと着替えを済ませた竜児は、あるものを取り出す。
-
実乃梨にも隠している……
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エロほ…ではなく、Aぶ…でもなく、
妄想が詰まった段ボール箱。
-
実際にエロいのがあるかどうかは…… 竜児だしなぁ…
妄想箱から取りい出しましたるは妄想デートプラン。
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それを見つめ口元を緩ませている竜児。
-
ヒャハ!今日はコイツで辱しめてやるぜ。
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とか考えているわけではない。
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あぁ、今日も一つ現実になっていくんだなぁ。
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とニヤついてるだけだ。
居間に戻ると程なくして実乃梨も出てきた。
「おまたへ。そいじゃ、GOだぜ!」
-
「おぅ!」
再びおねむの泰子とインコちゃんを残し、
-
「「いってきま〜す!」」
二人仲良く階段を降りていく。
また一匹になったインコちゃん、喋るのだろうか?
そして、映画館に到着。
で、一応確認、実乃梨の光を曇らせないよう、いかにも思い付きっぽく、
「お?今日から公開のが他にも色々あるぞ?アレなんかもいいんじゃない、…か……」
何も考えずに指差した看板…
『仁義!泣きバトル!!』
これは墓穴…というかある意味フ
-
「おいおい、こりゃあオジサンに対するフリかぁい?
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冗談は顔だけにしな。坊主が見てたらあっという間にファンに囲まれちまうぜぇ?」
-
首に手を廻し低音で鳴らす。
-
ボケ時のスキンシップ≧手を繋ぐ
であっても実乃梨的にはノーカウントらしかった。
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…ていうか仮にも彼氏の顔を……
冗談みたいで悪かったな…
- 結果から言うと色々と不安な映画ではあったが、あまりビビることもなく、けっこう楽しめた。
- かなりカオスっていたが…
-
「いやぁ、この櫛枝、すっかり見入っちまったよ。
-
映画って本っ当に良いもんですなぁ。
-
…あの降霊術、帰ったらやってもいい?」
-
「…やめてくれよ…本当に来たらどうすんだよ…」
「ちぇ〜、そっかぁ〜残念…」
「あ〜、そ、そのかわり、と言っちゃあなんだが今度心霊スポットに行ってみよう、な?」
-
「本当に?やった!
-
……竜児くんのそういう優しいところ、実乃梨は大好きでごさいますぞ、エへへ…」
「………」
-
竜児は、頬を朱に染めそれを俯いて隠す実乃梨を見逃した。残念。
-
なぜなら、竜児は今まさに天にも昇る気持ち、幽霊の仲間入り一歩手前であった。
-
「…そういえばさ、」
-
「はっ…なんだ?」
-
実乃梨の言葉で我に帰る。危ない所だった。
「さっきの映画で思い出した、
-
あーみんの別荘にお泊まり。
-
あの時、私の幽霊話を、竜児くんはちゃんと聞いてくれた、分かってくれた、
- それがすっごく嬉しかったんだ。」
「あぁ…でもそれは、お前がちゃんと話をしてくれたから…
聞くのが普通なんじゃないか?」
「ん〜ん、その普通がなかなか出来ないことなんだよ。
-
あれがあったから、今、こうしてられるんだ、多分。」
-
「そういうもんですか。」
「そういうもんですよ。」
-
「そうか…そしたら、キッカケを作ってくれた川嶋には感謝しなきゃなぁ。」
「うん。エライね竜児きゅんは。
-
あ、これは竜児きゅんが私を『きゅしえだぁ!』
-
なぁんて呼んだから生まれたものなんだぜ?覚えてるかい?」
-
「懐かしいなそれ。そして恥ずい…」
-
「くぅ〜いっちょまえに照れやがって、かわいいじゃねぇか。か・わ・ウィ〜!」
「ぐっ…」
竜児もカミカミの名前を返そうとするのだが、
- (※櫛枝実乃梨、通称みのりんは変な子です。長期間接種するとボケたい気分になることがあります。)
『みにょり』って何か変だな…と、やめてしまった。
-
「竜児きゅん、竜児きゅん。」
-
「ん?なんだよ?てかそれ恥ずいんだって…」
-
「ん〜ん、呼んだだけ。竜児きゅん、竜児きゅん、竜児きゅん、きゅん♪」
それから実乃梨は『竜児きゅん、竜児きゅん、竜児きゅん、きゅん♪』と楽しそうにリズムを刻んでいた。
勝手に『高須竜児召喚曲』を作られてしまったようだ…何だ召喚って?
-
……実乃梨はデュエリスト、なるほど、
-
闇属性悪魔族ってヤツか……めげそうだ…
- 「ん?アレは!?」
-
実乃梨が遠くに何かを見つけたらしい。目がキラキラしている。幽霊かUFOでもいたか?
-
「おーい、あーみん!」
「おぅ!?」
-
幽霊どころか悪魔……がたまに乗り移るような人物―川嶋亜美がそこにはいた。
-
「実乃梨ちゃん!」
-
「お久ッス!おぉう運命を感じるぜ!」
「よ、よう、川嶋。」
噂をすればなんとやら、
-
亜美は、お馴染みのスドバの前に佇んでいた。
大学生になり色気も増し、微妙にパクり感のあるカフェをバックにしてもなお、亜美はモデルオーラ全開で、道行く人が皆振り返る。
-
「二人とも久しぶりじゃん。高須くんなんて嫌でも毎日のように会ってたのに。」
「何だよ、俺と会うのがそんなに嫌だったかよ。」
「だってぇ、亜美ちゃんのかわいさに、高須くんの顔面凶器は毒なんだもん。」
…再びめげそうだった。
-
竜児をからかうのは変わってない…
-
しかし前より爽やかなのは何故だろうか……
-
馬鹿には分からない…
-
「おいおいあーみん、いくらなんでも言い過ぎであるぞ?」
-
あぁ庇ってくれてありがとう。 と感謝しかけるが、
-
「顔面凶器でも竜児くんの性格は知ってるだろう?毒ではないさ。
-
まったく、イヤだよこの娘は。」
-
フォローになってない。
-
てかさっきも言われてた。そういえば。
- 「まぁ…ね。んで?今日は何?デート?ちゃ〜んと仲良く恋人やってる?」
-
「おぉ、さっきも映画を見てきたんだ。な?」
「おぅよ、もう二人でウフフアハハって感じで。」
「ふ〜ん?」
亜美は微妙に納得いかなそうに、人の心まで覗くような不思議視線を向けてくる。
-
「……一線は越えてません。…って?」
どうしてこうも色々見抜けるのだろう。コイツは…
-
「キ、キスはしたぞ!な?」
「へ?そんなのいっ…あぁそだね!流石にね!ワッハッハッハッ!」
-
「アハハハ!」
…亜美でなくともバレバレだ。
そして一線=キスと考える辺り竜児らしさが窺える。
-
「うわぁ…キスもかよ…高須くんってオクテだとは思ってたけど…引くわぁ…」
「なっ…」
「実乃梨ちゃんはこ〜んなにかわいいんだよ?しかも一つ屋根の下でさぁ…」
-
亜美は実乃梨をジャジャ〜ンという感じに振る舞う。何か通販で見たような仕草。
-
「か、かわいいってそんなこと…オラ照れるっぺよ。
-
こ、これはあーみんが教えてくれたメイクをしてるだけで…そんな…」
-
ナチュラルメイクの太陽で照れ笑い…
-
そりゃあもう!
「メイクも前より上手だけど、やっぱり恋は乙女をかわいくするんだねぇ…うんうん。
-
高須くんもそう思うでしょ?」
「おぅ!」
「『おぅ!』じゃねぇよ…じゃあ何でキスもしてねんだよ?…ヘタレ?」
-
「ぐっ…そ、そういう川嶋はどうなんだよ?そういう経験あんのかよ?」
-
「まぁね、なんせ亜美ちゃんてばかわいいから、機会も多くて、自分でも気を付けてるっての。」
- 亜美はどうよとばかりにサイフからゴム製品を覗かせる、が…なんかずっとサイフに入れっぱと言うか、少しボロいと言うか…
-
ん?もしかして…
-
「なぁ、ちょっと…」
-
「ふぇ?」
「ゴニョゴニョゴニョ」
-
「え?まっさかぁ〜」
何やらコソコソやっている二人を、亜美は訝しげに見る。
-
そんな二人は悪戯っぽい笑みを浮かべ、亜美に近づくと、
-
「なぁ川嶋?お前の言う通り俺はヘタレで恥ずかしいことに童貞なんだ。」
-
「うんうん。そんな竜児くんと付き合ってるオイちゃんも恥ずかしいことにバージンなのだよ。」
-
と耳元で囁く。
……オイちゃんがバージンってなんだよ。
-
「だ、だからって何だってのよ?」
-
「あぁ、だからそれを付けるタイミングってのが分からなくてよ、いつかのために教えてくれねぇか?」
「そうそう、あーみん大先生にそこんトコご教授願いたく候う。」
-
「へ?いや、え〜と、それは、ね…」
竜児の予想が正しいのなら答えるのは難しいだろう。
-
そう、亜美が持ってる理由は、
-
『持ってますけど?普通でしょ?』
という中学生と同じ理由。
-
つまりは自慢みたいなもので、持っているだけ、使うことのないものなのだ。
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と、前にどこぞのアホが言っていた。
-
偉いぞ春田。もう例の単語は書けるか?
「…あ、そういえば、もうすぐ麻耶達が来るよ?
-
からかわれるし、もう行ったら?」
-
「ん?そうなのか…
そういえば川嶋、教えてくれないか?」
-
「くれないか?」
「っ、なんだよ、話聞けよ!
-
……あぁもう、悪かったわよ。嘘つきました、ごめんなさい。
…なんかたち悪くない?」
「おかげさまでな。」
「ったく、こういうのセクハラってんだよ?
-
…麻耶達の事は本当だから行った行ったもう。」
亜美は不満顔でシッシッと二人を追い払いかけるが、
- 「あっ、実乃梨ちゃん!」
-
「ん〜なんじゃらほい?」
今度は亜美が耳打ちをし出す。
-
「ヘタレとは言わないけど、高須くんはまぁ、あんなだからさ、
-
実乃梨ちゃんから攻めてかないと、進展しないままだよ?」
-
「いや、でも、今のままでも十分だし…
-
それにそんな…恥ずかしいよぅ…」
「高須くんは実乃梨ちゃんが大切だから何もしてこないんだよ。
-
思い切ってさ、バシッといっちゃいな!」
亜美は実乃梨の背中を押すとそのままに手を振って、背中を向けて元に戻っていった。
「どうしたんだ?」
「へ?いやなんでも、色々頑張れってさ。」
帰り道、実乃梨は何かを考え、朱に染まる頬を俯いて隠していた。
「む、これは…隠し味にコーヒーを使っておるな?」
-
「おぅ、バレたか…流石だな。
えと……コ、ココ、コイツは褒美だ、受け取れ。」
竜児は実乃梨の頭を少し乱暴になでなで。
この程度はノリでいけるかと思ったが、心臓は歓喜するかのように鼓動し、全身に熱い血液が流れていく。
-
そんなドキドキを隠そうにも顔は真っ赤で、ゆでダコ状態とはこのことだろう。
「へへへ。ありがとうございます…
じゃあ今度は俺のターンだ!
-
竜児くんみたく隠し味とかはないけど…
-
いかがでしょうか?」
-
「うん、ウマイ!ちょうどいい甘さ加減だ。舌触りも滑らかだし、
- バニラエッセンスもほのかに香る感じで最高だ。」
-
「えへへ、あ、ありがとう…ゴッドタン認定いただきました…
-
よし…お礼にコイツをくれてやるよ!」
「!?」
- それはまさに触れただけで稚拙なもの。
-
実乃梨の唇と竜児のそれ。
-
「なっ…なっ…なっ…」
-
「りゅ、竜児くんがいつまでもしてくれないから…
-
いくらみのりんでも耐えきれねぇよ…」
消え入りそうな、竜児だけがかろうじて聞き取れた言葉。
-
そんな普段からは想像出来ない“女の子”な実乃梨はかわいすぎた。
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竜児の中で何かがはち切れるくらいに。
-
「!?」
今度は竜児から。
しかしそれは先程のとは確かに違う、ちゃんとしたキス。
-
まさか竜児が、という事に驚く実乃梨だったがそれと同時に、
-
“竜児から”
-
それが嬉しくて、本当に嬉しくて。竜児の背中に腕を廻す。
はじめてのキスはプリンの味。
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竜児と実乃梨のが混ざり合い、甘くてほろ苦い、そんなまさに初恋のような。
竜児はさらに実乃梨が欲しくて、いとおしくて、舌を実乃梨の口へと進める。
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「!?」
最初は戸惑ったものの、実乃梨は竜児をそのままに受け入れる。
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恥ずかしいのだろう、実乃梨は舌を絡めるものの、外へは進めようとしない。
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頭が蕩けそうになる瞬間、竜児が離れていく。
- 「ぷわっ……りゅ、りゅりゅりゅ、竜児くん、エ、エロいよ、18禁!」
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「お、おぅ…ていうか俺も実乃梨も18禁はもう違うだろ……
-
ん?何だよ?」
「へへへ、は、恥ずかしいけど、嬉しいな。竜児くんからエッチなのしてくれるなんて…」
-
「…お前も俺としたいって思ってくれてるって分かったから…
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ずっと傷付けたらって、出来なかったし…」
-
「傷付く分けないじゃん。付き合ってるんだし、私だって憧れるよ、こういうの。
-
………ずっと出来なかったって…もっとエッチな事とかも考えてたりする…の?」
-
「そりゃ…まぁ、な…男だし…」
-
「りゅ、竜児くんはエッチさんだね。
…エッチ、スケッチ、ワンタッチ…
もっとエッチなのは…よくないと思います…まだ。」
「確かに考えてはいた…ただ、考えてたのとは違過ぎる…
今でもヤバイのにこれ以上は心臓が持たねぇ。」
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「だ、だよね。よかった、私もこれ以上はドキドキし過ぎてヤバそうだもん。
-
でも…嬉しかった。」
-
「俺も。」
-
「………」
「………」
-
「好きだ、実乃梨。」
-
「ヘヘヘ、私も。」
その後、バケツプリンは見事に完成。
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しかし作ったはいいものの、やはり最後の方は若干飽きが来て…
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MOTTAINAIので全部食べたが、暫くはプリン自体の需要が無さそうだ…
-
そして当然の事ながらダイエット戦士には大ダメージを与えていった。
-
ダイエット戦士―実乃梨とそれを支える竜児。
-
それはまた別のお話。
-
END
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